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2018年度統合報告書の傾向分析 投資家が最も熟読する箇所は?

産業能率大学 経営学部 教授
光定 洋介

毎年この時期(秋頃)に発刊される3月決算企業の統合報告書が、今年も続々と公表されている。2017年度には約400社の上場企業が統合報告書を発刊したが、その数は年々増加しており、2018年度における社数が昨年度を上回るのは確実と思われる。

統合報告書 : 統合報告とは「企業の持続的な成長を伝えるプロセス」であり、統合報告書は統合報告の成果物(アウトプット)を指す。IIRC(International Integrated Reporting Council=国際統合報告評議会)が2013年12月に公表した「国際統合報告フレームワーク」では、統合報告を「企業がどのように持続的な成長を実現しようとしているのかについて報告するもの」と定義している。具体的には、ビジネス上の様々な問題にどう対処するのか、自社の将来性をどうとらえているのか、中長期的な経営戦略をどう描くのか、どのように長期的な企業価値を作り出そうとしているのか、といった内容の報告であり、そこには「非財務情報」が多数含まれる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

統合報告書とは文字どおり財務情報と非財務情報を“統合”した形で報告するものだが(ただし、会社によって「アニュアルレポート」「サステナビリティレポート」など呼称は異なる)、金商法により開示が求められる有価証券報告書などと異なり、法定の開示書類ではない。国際統合報告評議会(IIRC=International Integrated Reporting Council)が定めたフレームワークはあるものの、記載内容や方法は各社のオリジナリティに任されている。そこには、経営成績のほか、経営理念、ビジネスモデル、経営戦略、経営資源の配分、ガバナンス、リスク、機会(自社にとってビジネスチャンスとなる外部要因)などが記載されており、各社ともその内容は年々充実してきているが、統合報告書の中で、筆者を含め投資家が最も熟読する箇所が「経営者のメッセージ」である。ここはまさに自由記述欄であるだけに、企業によって明確な特色が表れる。残念ながら、経営企画部のスタッフが無難に書き上げ経営者は単にそれを承認しただけと思われるものもある一方で、経営者自らが自分の言葉で自社の目標や将来像を語っているものや、過去の中期経営計画が未達となった理由を考え抜いたうえで経営者自らの言葉でそれを説明することを通じ次期中期経営計画への強いコミットを感じさせるものもある。また、後継者問題が懸念される企業で経営者自身がサクセッションプランに言及しているものもあれば、後述するSDGsに言及しているものも、していないものもある。このほかにも、経営者が重視しているビジネスチャンスや経営課題、経営者のリーダーシップの方向性、会社の文化、さらには文章から経営者の高い教養レベルを感じさせるものもある。経営者メッセージを経営企画部のスタッフに丸投げしているような経営者は、この部分こそ多くの投資家に見られているということを知る必要があり、今後は自らの考えを自らの言葉で書くよう改めるべきだ。

国際統合報告評議会(IIRC=International Integrated Reporting Council) : 国際的に合意された統合報告のフレームワークを構築するため、2010年8月に設立された英国を拠点とする民間の非営利法人。規制当局、投資家、企業、会計の専門家、NGOにより構成される国際的な連合組織である。また、IFAC(国際会計士連盟)、IASB(国際会計基準審議会)などとも協力関係にある。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

今年(2018年秋)の統合報告書の大きな特徴と言えるのが、・・・

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