日本の企業会計基準委員会(ASBJ)が検討を進めている「修正版IFRS(仮称)」の策定作業が大詰めを迎えている。修正版IFRSでは、「のれん」や「その他の包括利益(OCI)*1のリサイクリング*2」の取扱いに関しては現行の日本基準どおりとする方向だ(のれんについては2014年4月7日のニュース「IFRS敬遠理由の1つ「のれん=非償却」という世界の常識は変わるか?」、その他の包括利益(OCI)のリサイクリングについては2014年4月16日のニュース「持合株式の売却益は“利益操作”の道具か」を参照)。
*1 IFRSでは、会計上の操作がやりやすい「純利益」よりも、会社の資産の増減、すなわち「期末の純資産額-期首の純資産額」により求められる「包括利益(CI=Comprehensive Income)」が重視されている。この包括利益と純利益の関係を算式で表わせば「包括利益=純利益+その他の包括利益」となる。すなわち、「その他の包括利益(OCI= Other Comprehensive Income)」とは、純利益と包括利益の差額であり、「純資産のうち純利益(損益計算書)とは関係のないもの(=損益計算書に記載されず、直接貸借対照表に計上されるもの)」を指す。例えば、持合株式のような長期保有目的の有価証券の評価差額(帳簿価格と時価の差額)などはこれに該当する。同様に、持合株式の売却益もOCIとなり、永久に純利益として計上されることはない。
*2 その他の包括利益=OCIから純利益への振り替えを認めること。認めないことを「ノンリサイクリング」という。
今回検討の対象となっているのは、IASB(国際会計基準審議会)が2012年12月31日までに公表したIFRSなどだ。ASBJでは、今後、修正版IFRSの公開草案を公表し、秋頃までには正式決定する方針を示している。
修正版IFRSに関しては、今のところ新日鐵住金が適用を検討する考えを示しているものの、その他の企業がどの程度適用に踏み切るかは未知数。金融庁も「修正版IFRSを推奨したり、押し売りするつもりはない」としているからだ。
修正版IFRSが完成した場合、我が国においては、現行の日本基準、米国基準、(IASBが策定した)IFRSと合わせて“4つの会計基準”が並存することになる。金融庁はいずれの会計基準も認めるとしているため、企業は4つの会計基準のうち、いずれか1つを適用すればよいことになる。どの基準を採用するかは企業の任意となる。
政府の産業競争力会議が6月16日にまとめた日本再興戦略の改訂(素案)では、「上場企業に対し、会計基準の選択に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているか等)について、投資家に説明するよう東京証券取引所から促すこととする」ことが明記された。今後は株主やアナリストなどからIFRSの適用に関する質問を受ける機会も増えることが予想される中、企業としては、自社の方針を固めておきたいところだ。
まず、海外子会社がなくグローバルな事業展開を行っていない企業であれば、IFRSを適用する必要性は薄い。これまでどおり日本基準をそのまま適用すればよい話だ。
では、グローバルな事業展開を行っているか、あるいはそれを視野に入れている企業は、修正版IFRSとIFRSのどちらを採用すればよいのだろうか。この点、・・・
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