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金融商品の時価の「レベル別開示」義務化で上場会社への影響は?

投資家が投資判断を行う際に最も気にすることの一つに、経営者(会社)と投資家との間の「情報の非対称性」がある。「情報の非対称性」は様々な局面で生じるものの、会計データ、とりわけ見積もり要素が含まれる項目は「情報の非対称性」が顕著になりがちだ。見積もり要素が含まれる会計データとしては退職給付引当金や貸倒引当金といった引当金や不動産・のれんの減損(のれんの減損は2018年10月3日のニュース『IFRSにおける「のれん」の償却義務化議論の方向性』を参照)が真っ先に思い浮かぶが、「金融商品」の価値も見積もり要素の占める割合が高い項目として挙げられる。上場株式など時価が明確なものは別として、例えば市場価格のない株式や、金融工学の発展に伴い開発された複雑な価格変動性を持つデリバティブや仕組債証券化商品などの時価は、その算定上「見積もり要素」が多く含まれることなどにより、どうしても客観性は低くなる。IFRS(国際会計基準)や米国会計基準など国際的な会計基準では既に金融商品の時価を算定するルールが定められているが、日本の会計基準(以下、日本基準)にはそのようなルールがない。そこで日本基準を策定している企業会計基準委員会(ASBJ)は先月(2019年1月)、国際的な会計基準に基づき作成された財務諸表との比較可能性向上を目指し、金融商品の時価(公正な評価額)の算定方法に関する詳細なガイダンスを定めるとともに、金融商品の時価の“レベル別開示”(後述)を求める「企業会計基準公開草案第63号「時価の算定に関する会計基準(案)」(以下、時価算定基準案)を公表、2020年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用を提案している。

情報の非対称性 : 自社の情報については、経営陣など社内の人間の方が投資家よりも詳しいということ。
減損 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ計上する損失のこと。
仕組債 : 一定の条件(例えば、円とドルの為替レート)が達成された場合に一定の効果(例えば、元本の返済通貨が円からドルに変更される等)建てで返済されるが発動したり、デリバティブの仕組みを取り入れたりした債券。
証券化 : 不動産や債権など、キャッシュ・フローを生む資産を有価証券という形に変えて,第三者に売却する手法。

時価算定基準案では、金融商品の「時価」を「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格」(いわゆる“出口価格”)と定義した。そのうえで、金融商品の時価を算定する際に使われるインプット(=時価の算定式に入力する数値)の影響度(重要度)のレベルに応じて、時価を「レベル1の時価」「レベル2の時価」「レベル3の時価」の3つに分類し、各レベル別の開示を求めている。

時価算定基準案が「レベル別」に時価の開示を求めたのは、・・・

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