有価証券報告書(以下、有報)は、簡素化が進んだ決算短信と異なり情報量が豊富で、かつ、決算情報には監査人の監査意見も付されることからその信頼性も高い。このため、有報を投資判断の際の“最重要資料”の一つに位置付ける投資家は少なくない。それだけに有報の信頼性の確保・維持は投資家保護の観点から必須となっており、それを実現すべく、金融庁は毎年「有報レビュー(*)」を実施している。
・過年度の有報レビューの審査結果を踏まえて今期重点的に行う審査(重点テーマ審査)
・当該年度において新たに改正された開示事項に対して行う審査(法令改正関係審査)
・適時開示や報道、一般投資家等から提供された情報等を勘案して行う審査(情報等活用審査)
昨年(2018年)は1月に開示府令が改正され、2018年3月期の有報から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】や【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の開示内容の充実が図られている(2018年1月26日のニュース『新しい有報では「経営者の視点」への注目必至』参照)が、これに関する有報レビュー(法令改正関係審査)の結果、有報提出会社に対して次のような指摘が行われていたことが分かった(平成30年度有報レビューの「審査結果」から抜粋)。
(1) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等があるにもかかわらず、その内容が記載されていない事例 (2) 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等があるにもかかわらず、当該経営方針・経営戦略等又は当該指標等に照らして経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているか(例えば、経営成績等の達成度合いや必要な対応)を全く記載していない、あるいは一部の指標についてのみ記載している事例 (3) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報(例えば、重要な資本的支出の予定及びその資金の調達源は何であるかなど)について、キャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したもののほかに、当該事項に関する記載がない事例 |
指摘事項のうち(1)と(2)では、中期経営計画などで経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標(いわゆるKPI)を開示しているにもかかわらず、有報でKPIに触れていない企業がターゲットになった模様。また、(3)では、資本の財源及び資金の流動性に関する情報として、いまだに従来型のキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したものしか開示していない企業が審査でやり玉に挙げられた格好だ。これらの指摘を受けた企業は、訂正報告書の提出や次年度以降の有報で指摘事項への対応が求められる。
KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
こういった“開示後進企業”にとって参考になるのが、・・・
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