政策保有株式の保有意義・効果に投資家から厳しい目線が注がれる中(2019年7月29日のニュース『ISS、株式持合を「日本で最も深刻なガバナンスの問題」と指摘』参照)、開示府令の改正により2019年3月期の有価証券報告書からは、有価証券報告書の【株式の保有状況】の状況の中で、政策保有株式について以下の開示が求められるようになったところだ(【2018年11月の課題】新たな有報における「役員報酬」と「政策保有株式」の記載事項、 2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方」、2019年7月22日のニュース「政策保有株式の定量的な保有効果の開示例」参照)。
①提出会社の保有方針及び保有の合理性を検証する方法 ②個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容 ③提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果 (定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法) |
このような開示が義務付けられることとなった背景には、資本コストをかけ株価の下落リスクをとって政策保有株式を保有する以上、保有の合理性を検証する方法や取締役会等における議論の状況について開示を求めるべきとの声がある(上記開示府令改正のベースとなったディスクロージャーワーキンググループ報告13ページ~参照)。ところが、2019年3月期の有価証券報告書では、下記の観点から記載が十分でない事例が見受けられる。
資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。資本コストが小さい=投資家にとってのリスクが小さいということになる。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。株主資本により資金調達を行った場合のコストが「株主資本コスト」であり、株主資本の提供者である株主が期待する収益率のことを指す。一方、他人資本コストとは要するに借入金の金利を指す。この株主資本と他人資本を合わせた「総資本」のコストが「総資本コスト」である。総資本コストは、株主資本コストと他人資本コストを、株主資本(株式の時価総額)と他人資本(負債総額)の合計額に占めるそれぞれ額で按分(加重平均)した上で合計するため「加重平均資本コスト」、英語では「Weighted Average Cost of Capita=WACC(ワック)」と呼ばれる。
・提出会社の保有方針及び保有の合理性を検証する方法、個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容が十分記載されていない。 ・定量的な保有効果の記載が困難な場合に、保有の合理性を検証した方法が十分記載されていない。 |
上記観点からは、例えば下記の事例は「開示が不十分」であると考えられる。・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。