近年、機関投資家が企業に「対話」を求める動きが広がっているが、機関投資家が企業に対して行う典型的な要求や質問が以下の3つだ。
(1) 株主還元(配当等)を増やすべき
(2) 投資にはどの程度の収益が見込まれるか
(3) 主たる事業と関連性の薄い事業は売却するべき
機関投資家と対峙した役員の中には、厳しい要求等に、時には不快感を抱く向きもある。(1)と(2)はともかく、(3)の要求は“理不尽”とさえ感じることもあろう。ただ、機関投資家の要求等には明確な「資本市場の論理」の裏付けがある。そこを理解していれば、機関投資家の要求等の理由が分かり、冷静な対話も期待できるはずだ。
実はこれらの要求等は、個々の機関投資家の投資収益だけでなく経済成長に深く関わっており、さらに経済成長は株式市場の活性化を通じて機関投資家に収益をもたらすことになる。そこで、まず資本市場の役割について簡単に整理しておこう。
経済においてもっとも重要な要素の1つが「資源の配分」だ。冷戦時代、共産圏の国々では政府がこれを主導した結果、非効率な部門への資源配分を止められず、経済が大きく停滞し体制崩壊を招いた。一方、この資源の配分を市場に委ねるのが市場経済であり、特に重要なのが資本(カネ)の配分を担う資本市場である。その役割は、資本をもっとも効率的に増大させる(=リターンを生む)と期待される事業への配分を増やし、そうでない事業への配分を減らすことで効率的な経済成長を促すことに他ならない。
ここで、事業Aと事業Bを想定し、事業Bの方が高い投資収益が期待されると仮定する。資本は「事業B」に重点的に配分されるべきなのは明らかだ。両事業が生み出す収益の再投資についても同じことが言える。以下、(ア)両事業を別々の企業が営むケースと、(イ)1つの企業が営むケースに分けて収益の再投資の流れを見てみよう。
(ア)別々の企業が営むケース
A社が事業A、B社が事業Bを営んでいるとする。A社が事業Aを通じて生み出した収益は、配当等を通じて投資家に還元された後、投資家の判断でB社を通じて事業Bに配分(投資)される、というステップを経ることになる。しかし、そもそもA社による還元が不十分であれば、このような配分は実現しない。これが投資家による上記(1)の「株主還元(配当等)を増やすべき」という要求の背景だ。一方、投資家はB社への投資に際して、事業Bへの投資の期待収益を確認する必要があり、これが(2)の「投資にはどの程度の収益が見込まれるか」という質問の背景となる。
(イ)1つの企業が営むケース
次に、C社が両方の事業を行っているケースを考えてみよう。・・・
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