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KAMが監査役等に与える影響

周知のとおり、2021年3月期の金商法の監査報告書から、監査上の主要な検討事項(KAM:Key Audit Matters)の記載が求められる(2020年3月期からの早期適用が可能。早期適用の開示状況は2020年7月2日のニュース「速報 KAMを記載した2020年3月決算企業の社数・属性、KAMの数と内容」参照)。KAMは、次の二つのステップを踏まえて金商法の監査を担う監査法人または公認会計士(以下、監査人)が選定する。

①監査人は、監査役等(監査役、監査役会、監査等委員会または監査委員会)とコミュニケーションをとった事項の中から、財務諸表の監査において、特に注意を払った事項を決定する。その決定に当たっては、以下のa~cが考慮される必要がある。
a.特別な検討を必要とするリスクが識別された事項、または重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された領域
b.見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断
c.当年度において発生した重要な事象または取引が監査に与える影響等

会計上の見積り : 繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。

②監査人は、上記の特に注意を払った事項の中から、当年度の財務諸表の監査において職業的専門家として特に重要であると判断した事項を、KAMとして決定する。

ポイントは、①にあるとおりKAMは「監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から」選定されるという点だ。このことは監査役等に主として以下の影響を与えることになる。

(1)コーポレート・ガバナンス
監査計画、期中監査、期末監査といった各段階における監査人と監査役等との間の連携およびコミュニケーションが必然的に強化される。従来から、監査人は、不正リスクに対応するため、監査役等と協議する等適切な連携を図らなければならないことになっているが、監査役等はこれまで以上に監査人の監査に協力する必要性が高まる。

また、KAMの記載を巡っては、監査人と監査役等だけではなく、監査役等と経営者との間でも綿密な協議がなされるようになると予想される。特に、KAMの項目、記載の詳細さの程度について、監査人と経営者との間で相違がある場合、監査役等には両者の間に立って主導的な役割を果たすことが期待される。

監査人、監査役等、経営者との間でコミュニケーションが図られることは、コーポレート・ガバナンスの観点から極めて重要となろう。

(2)能力
KAMは財務諸表の監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項であり、場合によってはその理解に高い専門性が必要になる可能性がある。このため、監査人のKAMに関する記載内容を理解できるように監査役等がその能力を高めるか、・・・

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