いよいよKAM(監査上の主要な検討事項)の監査報告書への記載が2021年3月期決算の(金融商品取引法(以下、金商法)に基づく)監査から義務化される。周知のとおり、KAMとは「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、会計監査人(以下、監査人)が職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項」を指す。それだけに、監査人がKAMとして記載した事項が、企業が作成する財務諸表の注記事項などとして記載されていないという状況は、決して望ましいものとは言えない。したがって、このような場合、経営陣は「KAM」とされた事項を追加開示することを検討すべきだろう。追加開示の場所は財務諸表の注記に限定する必要はない。有価証券報告書の「事業等のリスク」や「MD&A」など記述情報(非財務情報)における開示など、金商法上の開示ルール(開示府令)の範囲内で(KAMは金商法に基づく監査において記載するものであるため)、財務諸表の注記にこだわらず情報開示を検討するべきだろう。
MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。
記述情報(非財務情報) : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。
もちろん、KAMの目的はあくまで監査人が実施した監査の透明性を向上させることにあり、企業が公表(開示)していない情報を監査報告書で投資家等に提供することを目的としているわけではない。また、企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、KAMの記載が企業による開示を代替するものではない。とはいえ、監査人が監査報告書にKAMとして記載した事項が有価証券報告書のどこにも記載されていなければ、投資家の目には「監査人と監査役または経営陣の間のコミュニケーションが十分とられていない」と映るだろう。
2020年7月2日のニュース「速報 KAMを記載した2020年3月決算企業の社数・属性、KAMの数と内容」でお伝えしたとおり、2020年3月期においてKAMを早期適用した企業は44社存在する。そのうちの1社が・・・
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