コロナ禍の企業経営への影響が投資家の大きな関心事であることは言うまでもない。関心事の一つが「 会計上の見積り」だ。現行の開示ルールでは、「会計上の見積りに用いた仮定」に“重要性”がある場合、これを有価証券報告書の「コロナ禍に関する仮定」を「 追加情報」において開示することが求められるが、2020年3月期の有価証券報告書等からはこの仮定に「新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定」(以下、適宜「コロナ禍に関する仮定」という)が企業会計基準員会(以下、ASBJ)の強い要請により加わったところ。すなわち、会計上の見積りに用いたコロナ禍に関する仮定に「財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク」がある場合には、その仮定を追加情報において開示せよ、ということだ(2020年5月14日のニュース『有報作成に影響も ASBJが「コロナ収束時期の仮定」の開示を強く要請』参照)。これを受け、上場企業の約7割が追加情報においてコロナ禍に関する仮定について何らかの開示を行った。ワクチンという明るい材料が出て来たとはいえ、足元ではコロナ禍が収束に向かっているとは言えないことから、2021年3月期決算においても将来キャッシュ・フローをはじめとする会計上の見積りが困難な企業は多いはずであり、引き続き「コロナ禍に関する仮定」を開示する企業が相次ぐことが予想される。
会計上の見積り:繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義している。
追加情報 : 利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合に求められる注記のこと(財務諸表等規則第8条の5)。
ただし、2021年3月期の有価証券報告書からは、コロナ禍に関する仮定の開示場所が変わるので注意したい。・・・
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