最近、日本を代表する企業2社がIFRS(国際会計基準)の採用に踏み切った。トヨタ自動車とソニーグループだ。両社とも従来の米国会計基準に替えてIFRSの任意適用を開始している(トヨタ自動車は2021年3月期第1四半期から、ソニーグループは2022年3月期第1四半期から)。東証上場会社のうちIFRS適用済会社は社数こそ226社にとどまっているが、IFRS適用決定会社10社、IFRS適用予定会社7社を加えた時価総額の合計は327兆円と、東証上場会社の44.0%に達している(東京証券取引所が2021年9月8日に公表した『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2021年3月期決算会社まで≫』の7ページ参照)。
時価総額の大きい日本企業がIFRSを任意適用しているのは、米国・中国を除くと、世界レベルではIFRSこそが共通の会計の“モノサシ”となっているからに他ならない。その状況を可視化したのが下の図だ(金融庁の「会計基準を巡る変遷と最近の状況」(2020年11月6日公表版)の9ページより抜粋)。
IFRSを任意適用した上場会社が、その理由として「国内外のグループ会社を同じモノサシで管理できるだけでなく、世界中のライバル会社との比較も容易になる」「海外投資家の利便性も向上し、グローバルな資金調達の機会が広がることが期待できる」ことを挙げているが、上図のオレンジ色(全てまたは大部分の主要企業に対してIFRSを強制適用している法域)の部分の広さを見ると、その意味するところが直感的に理解できるだろう。
では、海外子会社や海外売上がない“ドメスティック”な日本企業ではIFRSを任意適用する必要はないかというと、プライム市場への移行を予定している上場会社であればそうとも言い切れない。IFRSを任意適用している東証一部上場会社はほぼ例外なくプライム市場に移行するものと思われる一方、スタンダード市場へ移行することを選択する東証一部上場会社のほとんどは引き続き日本基準を採用することが予想される。この結果、IFRSの存在感は現在の東証一部市場よりプライム市場の方が確実に高まることになる。「IFRSを任意適用していること」はプライム市場に上場するための要件ではないが、プライム市場内でIFRSを任意適用している上場会社(とりわけ比較対象にされやすいライバル会社)が増えるほど、これまで以上にIFRSを任意適用することについて、投資家からのプレッシャーが強まる可能性がある。
冒頭で紹介した東証の『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2021年3月期決算会社まで≫』によると、IFRS適用予定会社の手前のステージと言える「IFRS適用に関する検討を実施している会社」は167社あり、そのすべてがIFRSを適用することになれば、東証市場全体に占めるIFRS適用済会社の時価総額ベースの比率はおよそ66%と3分の2に達することになる(7ページ参照)。
金融庁が2015年4月15日に公表した「IFRS適用レポート」には、上場会社が社内でIFRS導入に向けてのキックオフ・ミーティングを開始してから実際にIFRSによる有価証券報告書を開示するまでの移行期間は平均で3年8か月かかるとの調査結果が示されている(38ページ参照)。IFRSへの移行期間を売上高区分別に集計したのが下記のグラフだ。売上高規模の小さい企業ほど、移行期間が短いことが分かる。
ただし、①移行に時間がかかる売上高1兆円以上のクラスの上場会社は既にIFRSを任意適用済みのところが多いこと、②2015年の調査から6年の歳月が経過し、監査法人側にノウハウが蓄積されてきたことを考慮すると、IFRSへの平均移行期間は2015年の調査時より短縮しているものと思われる。さらに、「IFRS適用に関する検討を実施している会社」167社は(各社で進捗状況は異なるものの)全体として見れば移行期間の半分ほどまで準備が進んでいると仮定できる。結論として、2年から3年以内には、時価総額ベースで見たIFRS適用済会社は東証市場全体の3分の2に達する可能性が高いと言えよう(プライム市場だけで見るとさらに早まるものと思われる)。
そうなると、海外子会社や海外売上がないドメスティック日本企業であっても、プライム市場へ移行する以上は、少なくとも同業他社のIFRS適用の検討状況くらいは知っておく必要が出てくる。それを確認するには、・・・
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