ここ数年、上場会社には、株主総会での議決権行使を容易にするための環境整備が求められてきたが、「投資家との建設的な対話」をコンセプトとする(*)プライム市場上場会社となれば、こうした環境が当然の前提、すなわち「標準」になると考えておくべきだろう。プライム市場に上場する予定の会社は、自社がこの「標準」にキャッチアップできているか、確認しておく必要がある。
『多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場』
現状でも、東証上場会社は、企業行動規範により「望まれる事項」として、株主総会での議決権行使を容易にするため以下の事項を実施するよう努めることが求められている(上場規程446条、施行規則437条)。
(1)定時株主総会を開催する他の上場会社が著しく多い日と同一の日を、定時株主総会の日と定めないこと。 (2)株主総会の招集の通知を会社法第299条第1項に規定する期日よりも早期に発送すること。 (3)次のaからeまでに掲げる書類を、株主総会の日の3週間前の日よりも前に電磁的方法により投資者が提供を受けることができる状態に置くこと。 a 株主総会の招集の通知 b 会社法第301条第1項に規定する株主総会参考書類又は施行令第36条の2第1項に規定する参考書類(以下「株主総会参考書類等」という。) c 定時株主総会の場合は、会社法第437条に規定する計算書類及び事業報告 d 定時株主総会の場合は、会社法第446条第6項に規定する連結計算書類 e aから前dまでに掲げる書類を修正した場合は、その旨を記載した書類及び修正前の書類 (4)株主総会の招集の通知及び株主総会参考書類等を要約したものの英訳を作成し、投資者が提供を受けることができる状態に置くこと。 (5)電磁的方法により議決権の行使を行うことができる状態に置くこと。 (6)その他株主総会における議決権行使を容易にするための環境整備に向けた事項 |
(1)から(6)のそれぞれについて、最新のデータを用いながら、プライム市場の「標準」を探ってみよう。
(1)はいわゆる“集中日”に定時株主総会を開催すべきではないというもの。集中日における定時株主総会開催率(集中率)はかねてから3月決算会社で問題となっており、1990年代前半は9割を超える会社が集中日に定時株主総会を開催するという異常事態が続いていたが、1995年をピークに集中率は低下しはじめ、2017年には30%を切ったものの、それ以降は30%超えが続き、ようやく2021年に再び30%を切るに至った(東証が2021年4月26日に公表した「2021年3月期決算会社の定時株主総会の動向について」の3ページより引用)。
■東京証券取引所の3月決算上場会社の定時株主総会の最集中日における集中率の推移
集中日開催は株主の総会出席の機会を奪うものであり、投資家との対話を重視するプライム市場上場会社では、当然ながら集中日を避けて定時株主総会を開催すべきである。
(2)の株主総会の招集の通知の発送に関する「会社法第299条第1項に規定する期日」とは、上場会社であれば「株主総会の日の2週間前」となる。「2週間前」を守るのは当然として、招集通知の発送が早ければその分株主が議案の内容を検討する期間を確保できることから、早ければ早いほど望ましいことは言うまでもない。また、招集通知は現行会社法では紙(*)での郵送が求められているため、株主の手元に届くまで数日のタイムラグがある。このタイムラグはTDnetに招集通知をアップすれば解消可能である。そこで、(3)では招集通知を「3週間前」にTDnetにアップするという目標が示されている。
TDnet : Timely Disclosure networkの略。上場会社が行う適時開示に関する一連のプロセス、すなわち証券取引所への事前説明(開示内容の説明)、報道機関への開示(記者クラブや報道機関の本社の端末への開示資料の伝送)、ファイリング(開示資料のデータベース化)、公衆縦覧(開示資料の適時開示情報閲覧サービスへの掲載)を総合的に電子化したシステム。
2021年3月決算では、招集通知の早期ウェブ開示(招集通知を定時株主総会の3週間(中15営業日)以上前にTDnetにて電子的に公表)を実施した上場会社は全上場会社のうち67.5%であり、さらに早い「4週間前」までに行った会社は19.0%であった(東京証券取引所が2021年9月21日に公表した「株主の議決権行使に係る環境整備に関する2021年6月総会の状況及び今後の動向について」の2ページ目を参照)。
時価総額および外国人保有比率が高いほど早期に開示を行う傾向がみられ、時価総額5,000億円以上の会社では過半数(52.8%)が4週間前までに開示を実施している(下記のグラフを参照)。・・・
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