IFRS(国際財務報告基準)を策定するIFRS財団が、国際的に統一された気候変動開示のルールをはじめとする「サステナビリティ報告基準」を策定するために設立した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)が公表した「サステナビリティ関連財務情報開示の全般的な要求事項のプロトタイプ」(プロトタイプのポイントは「第7回 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ」の事務局説明資料4ページ参照)では、企業に求められる開示は①幅広いマルチステークホルダー向けのサステナビリティ報告、②サステナビリティ関連の財務情報開示、③財務報告、の3つのカテゴリーに分類された。②および③を合わせた情報は「企業価値報告」と呼ばれ、ISSBが策定を進めているサステナビリティ開示基準はこのうち②を対象としている。「投資者にフォーカスする」とあることから分かるように、サステナビリティ開示基準はシングル・マテリアリティの考え方をベースにしている。
シングル・マテリアリティ : マテリアリティとは「重要性」を意味するCSR用語であり、マテリアリティを開示する目的は要するに「自社にとって重要な課題は何か?」を明らかにすることにある。シングル・マテリアリティとは企業が環境や社会から「受ける」影響を示す“投資家目線”のマテリアリティであるのに対し、ダブル・マテリアリティとは、これに企業が環境や社会に「与える」影響を示す “(市民社会等を含む)マルチステークホルダー”目線のマテリアリティを統合したものを指す。
②のサステナビリティ関連の財務情報開示は、③の財務報告と同時に行わなければならず、また、財務諸表と同じ報告期間に関するものでなければならないとされている。これは、投資家が財務情報を無視して投資判断をすることはあり得ず、あくまで「財務情報」と、サステナビリティ情報といった「非財務情報」の両方を用いて投資判断を行うためだ。
周知のとおり、我が国におけるサステナビリティ情報の開示の義務化については、現在、金融庁・金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループで議論が進んでいるが、基本的にISSBのサステナビリティ開示基準案をベースとしており、既存の有価証券報告書に上記②のサステナビリティ関連の財務情報、すなわち「サステナビリティ情報のうち企業価値に影響する内容」を追加しようとしている。すなわち、サステナビリティ情報は財務諸表と別の書類で開示されるわけではなく、有価証券報告書において“ワンセット”で開示される。したがって、サステナビリティ情報が有用であるためには財務諸表と関連している必要があり、サステナビリティ情報の重要性ばかりが強調されて独り歩きして財務諸表と分断され、不整合となってはならない。そこで問われることになるのが、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報と財務情報の「コネクティビティ(結合性)」だ。・・・
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