今後予定される気候変動情報開示の強化を先取りした動きが、2022年3月期決算会社の有価証券報告書に早くも表れていることが当フォーラムの調査により判明した。
2022年6月13日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」(以下、DWG報告)では、「(2)我が国における気候変動対応に関する開示の対応」として、「・・・まずは、基準策定に向けた議論の途上にある ISSB の気候関連開示基準の策定に積極的に参画し、日本の意見が取り込まれた国際基準の実現を目指す」とし、「その後、本年中に最終化予定のISSBの気候関連開示基準を踏まえ、SSBJにおいて迅速に具体的開示内容の検討に取り掛かる」との方向性を打ち出しつつ(ISSBとSSBJの関係については2021年9月28日のニュース『気候変動など非財務の「開示基準」の行方』参照)、「現時点」においては、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の枠(下表参照)で開示すべき、との考えを示している。周知のとおり、これら4つの枠は、TCFDが求める気候変動情報開示の“4つの柱”であり、DWG報告の内容は、プライム市場上場会社に対しTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を求めるコーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③とも整合していると言える。
ISSB : 正式名称はInternational Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が昨年(2021年)11月に設立した。
SSBJ : 正式名称は「Sustainability Standards Board of Japan(サスティナビリティ基準委員会」で、IFRS財団におけるISSBに相当する日本の組織。母体となるのは、財務会計基準機構(FASF)である。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。
1.ガバナンス | 2.戦略 | 3.リスク管理 | 4.指標と目標 |
気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンスを開示する。 | 気候関連のリスク及び機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への実際の及び潜在的な影響を、そのような情報が重大な場合は、開示する。 | 気候関連リスク及び機会について、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する。 | 気候関連のリスク及び機会を評価・管理する際に使用する指標と目標を、そのような情報が重要な場合は、開示する。 |
気候変動情報の具体的な開示内容はSSBJの議論を踏まえ開示府令が改正されて確定することを踏まえると、気候変動情報の開示が義務化されるのは最短でも2024年3月期からとなる。したがって、当然ながら2022年3月期の有価証券報告書においては、4つの柱に基づく開示は義務付けられていない。
しかし、当フォーラムが2022年3月期有価証券報告書(全2,589社)の気候変動リスクに関する開示状況を調査したところ、・・・
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