会社を構成する「ヒト」「モノ」「カネ」のうち、一朝一夕でそろえることが難しいのが「ヒト」だ。また、「ヒト」は会社の成⻑・収益⼒の源泉であるだけでなく、当然ながら社会の構成要素でもある。このため、会社の人材戦略には社会のサステナビリティを支えるという側面もあり、人材戦略は「サステナビリティ経営」の重要な一翼を担っているとも言える。
このように、人材戦略は会社の成⻑・収益⼒の源泉、サステナビリティ経営の実践という両面から投資家の注目を集めており、コーポレートガバナンス・コードの補充原則2-4①や補充原則3-1③では、人材戦略に関する目標や方針、実施状況などの開示を求めているところだ。
ただ、現状、人材戦略や人的資本関連の開示は有価証券報告書などの制度開示では十分に手当てされていない。政府・金融庁はその現状を変えるべく、2022年6月13日には金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループの報告書(以下、DWG報告書)を公表、これを受け年内に開示府令を改正し、2023年3月期の有価証券報告書から適用する方針であることは既報のとおりだ(2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』参照)。
DWG報告書が有価証券報告書で開示を求めている項目は下記のとおりとなっている(DWG報告書14ページ)。
(ⅰ)中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする (ⅱ)それぞれの企業の事情に応じ、上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況について、同「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする (ⅲ)女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする |
上記(ⅰ)については、会社によって名称や内容の違いはあるにせよ何らかの「方針」はあるのが通常であるため、それをメンテナンスすることで対応できるケースが多いだろう。また(ⅲ)も、算定した値が業界平均を下回ることになれば採用活動や企業イメージの点で他社の後塵を拝しかねないというリスクはあるものの、会社にとっての負担という点では、算定した値を開示するだけの話に過ぎない。これに対し(ⅱ)は、「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定が必要となることから、こういった指標をKPIとして採用していない会社では、人材関連の多数の指標の中から自社に適したものを選定するのに手間取ることが予想される。こうした会社にとっては、・・・
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