米国では、報酬と業績の相関(Pay Versus Performance(PVP)と呼ばれる)についての開示が強化されることになった(2022年8月25日付の米国証券取引委員会(SEC)のリリースはこちら)。米国の経営者報酬というと、報酬額そのものの多寡が注目されがちだが、報酬とパフォーマンスが整合している限りにおいては、株主・投資家は必ずしも高額報酬に対し否定的ではない。この点からすると、米国の株主・投資家は、報酬を企業のバリューアップを実現するための“ツール”と捉えていると言える。
一方、日本ではどうだろうか。報酬委員会、その委員である社外取締役、そして委員会事務局などは、役員報酬改革を通じて本当に経営陣(とりわけCEO)を継続的に鼓舞できているのか、また、多くの日本企業のPBRが1倍割れの状況にある(令和4年4月 経済産業省・経済産業政策局「グローバル競争で勝ちきる企業群の創出について」2ページ参照)中、これまで取り組んできた報酬改革が自社のバリューアップを後押しする仕組みとなっているのか、改めて検証する必要がある。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
一見すると、役員報酬改革を行う企業の急増とともに、報酬委員会での活発な議論や機関投資家とのエンゲージメントなど、役員報酬を巡る意思決定は従来のブラックボックス的な運用から、より健全なものへと変貌を遂げているように見える。ところが、よくよく各社の役員報酬改革の内容を分析してみると、日本的な“悪い癖”が出ているように感じられる。日本企業にありがちな役員報酬改革の例を挙げると、・・・
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