スチュワードシップ・コードの導入により企業と投資家の対話(エンゲージメント)が求められているが、企業としては「投資家が何を知りたいのか」、大いに気になるところだろう。
こうした中、経済産業省内に設置されている「投資家フォーラム作業部会」は、機関投資家が企業に質問したい事項をまとめたペーパー「企業経営者と長期投資家の実りある対話のために」を取りまとめた。
「投資家フォーラム」とは、経済産業省の企業報告ラボのプロジェクトの1つで、機関投資家等により構成されるもの。下記のとおり、今年(2014年)2月に公表された「日本版スチュワードシップ・コード」や8月に公表された伊藤レポートには、投資家間の意見交換などを後押しする記述が盛り込まれており、「投資家フォーラム」プロジェクトはこれらを根拠にしている。
日本版スチュワードシップ・コード 指針7-3
対話や判断を適切に行うための一助として、必要に応じ、機関投資家が、他の投資家との意見交換を行うことやそのための場を設けることも有益であると考えられる。
伊藤レポート P.90
企業との対話に向けた実力を高めるため、機関投資家等が知識や経験を共有し、投資家間での忌憚ない議論や情報発信等ができるプラットフォームづくりを促進することも重要である。対話・エンゲージメントに関し、その深さや相手、対話軸はどうあるべきかといった共通基盤を知的インフラとして提供することなどが期待されよう。
投資家フォーラムの参加者は、所属運用会社の商業的利害関係や運用方針または投資ポジションによる利益相反の介在を排除するため、基本的には「個人」となるが、参加者には巨額資金を動かす資産運用会社に所属する者が多数含まれる見込みであり、その影響力は大きいものになるだろう。実際、主要運用会社が投資する株式数を合算すれば、保有割合が20%を超えることになる上場会社は少なくない。
今回取りまとめられたペーパーでは、「長期的な戦略課題と持続的な価値創造」「規律ある経営の仕組み」「投資家への向き合い方」の3つに分けて、機関投資家等から企業に投げかけられるであろう質問項目が列挙されている。
なかでも機関投資家が最も重視しているのが、「長期的な戦略課題と持続的な価値創造」だ。今回のペーパーの目的は、決して機関投資家が企業に文句を言うことではない。あくまでも企業の価値創造を後押し、価値創造のビジョンを企業と機関投資家がシェアすることを狙いとしている。報酬問題が典型であるように、これまでのコーポレートガバナンスに関する議論を踏まえると、つい「機関投資家vs企業」という図式を想像しがちだか、それは企業価値の創造という観点からはあまり意味がないというのが、投資の世界における世界的な新潮流となっている。
具体的には、「中長期的な企業価値向上や持続的成長を促す」という観点から、「経営理念」「ビジョン」「目標達成のための具体的戦略」「成長原資の確保」をテーマにした下記のような質問項目が並んでいる(一部、当フォーラムで要約)。
・10 年後にどのような姿になっていたいと考えるか。また、会社の将来像、経営理念や長期ビジョンなどが経営計画や経営戦略等にどのような形で反映されているか。
・ 経営計画等における財務係数や経営管理指標(KPI)の目標値はどのような考え方にもとづいて決定されたか。そして実際にどのように現場への浸透を図っているか。
・株主資本をどのように活用しようと考えているか。中長期的な事業拡大に向けた投資に備えた部分、リスクへの対応を目的とする部分、株主への還元を想定する部分などの配分についてどのように考えているか。
・現金等(含む現金相当物)について適正と考えられる水準(比率等)はどの程度か。それはどのような考え方に・・・
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