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存在感を増すSASBスタンダード

当フォーラムでもしばしば取り上げてきたSASBスタンダードとは(例えば2021年6月22日のニュース「サステナビリティ開示の将来像」参照)、米国の非営利団体であるSustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会)が中長期視点の投資家の意思決定を支援するために開発した、持続可能性が財務に与える影響を報告するフレームワークをいう。SASBスタンダードは、企業のキャッシュフロー、資金調達、資本コストに影響を及ぼすと合理的に予想されるサステナビリティ関連のリスクと機会を、11のセクター、77の業種について特定している点に特徴がある。SASBスタンダードは、「環境」「社会資本」「人的資本」「ビジネスモデルとイノベーション」「リーダーシップとガバナンス」の5つの領域に関連する開示トピックと開示すべき指標(会計メトリクス)を詳細に定めており、同業種の企業の比較可能性を確保するための重要なツールとなっている。SASBスタンダードを一言で表現するなら、「産業別指標を横並びで比較することができる開示基準」ということになる。


SASB : SASB(サステナビリティ会計基準審議会=Sustainability Accounting Standards Boad)は2011年に設立された米国に拠点を置く団体であり、持続可能性が財務に与える影響を投資家に報告するフレームワークであるSASBスタンダードを策定した。SASBスタンダードは、11セクター・77 産業について、産業ごとに企業の財務パフォーマンスに影響を与える可能性が高いサステナビリティ課題を特定している点に特徴がある。SASBは、統合報告書の作成についての考え方をまとめた「国際統合報告フレームワーク」を策定したことで有名なIIRC(国際統合報告評議会=International Integrated Reporting Council)と合併してVRF(=Value Reporting Foundation)となり、さらにVRFは2022年6月にISSBに統合された。
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
会計メトリクス : 会計メトリクス(Accounting Metrics)とは、企業の財務状況や業績を定量的に評価するための指標のことをいう。代表的な会計メトリクスとしては、売上高、純利益(売上高からすべての費用を差し引いた後の利益)、営業利益(売上高から営業費用を差し引いた後の利益)、自己資本比率(総資産に対する自己資本の割合)、流動比率(流動資産を流動負債で割った値で、短期的な支払い能力を示す)などがある。会計メトリクスは、企業の経営状況を客観的に評価するうえで重要であり、会計メトリクスを用いることで、経営者や投資家は企業の財務状況を把握することができる。

このようにサステナビリティ開示基準として優れた面を持つSASBスタンダードだが、あくまで“米国発”のものであるため、米国以外の国の企業にとっては使い勝手が良いとは言えず、日本企業にも人気がある基準ではなかった。こうした中、2022年8月からIFRS財団の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がSASB基準の開発責任を引き継ぎ、基準の維持、強化、進化に取り組むこととなり、2023年12月にはSASBスタンダードの改訂が行われた。この改訂の狙いは、・・・


ISSB : 「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。

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