周知のとおり、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は現在、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)により開発されたIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2号「気候関連開示」をベースとした我が国初のサステナビリティ報告基準(以下、SSBJ基準)を開発中だが、そのSSBJは2024年11月14日、GRI グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)との間でより良い企業報告に向けた取組みに関する基本合意書を締結した。
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。
ISSB : 「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。
IFRS S1号 : 「全般的な」サステナビリティ関連開示の要求事項を定めたもの。企業が短期のみならず、中長期にわたって直面するサステナビリティ関連のリスクおよび機会を企業が投資家に伝えるための開示基準である。
IFRS S2号 : 気候関連開示の要求事項を定めたものであるが、気候関連開示を求めつつ、S1号とセットで利用されるように設計されている。現状では、「個別テーマ」についての基準はS2号の気候変動しかないため、他のテーマ(例えば人的資本、人権、生物多様性)について開示する場合はS1号に基づくことになる。
GSSB : GSSB(Global Sustainability Standards Board)は、GRI(Global Reporting Initiative)の一部であり、持続可能性報告のための基準を策定する独立した機関。GSSBは、企業や組織が環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報を透明かつ一貫して報告できるようにするための基準を提供している。
GSSBは企業が経済、環境、社会に与える重要なインパクトを報告することを目的とするGRIスタンダードの設定主体であり、GRIスタンダードは世界で最も普及が進んでいるサステナビリティ報告基準と言える。GSSBによると、世界の大規模250社のうちGRIを用いてサステナビリティ報告を行っている企業の割合は78%、日本の時価総額上位100社では87%となっている。また、2023年度で見ると、売上高250百万ドルを超える上場企業がGRIを利用している割合は、グローバルでは36%、日本では28%となっている。このように大きな影響力を持つGRIスタンダードだが、GRIスタンダードは企業が経済、環境、社会に与える重要なインパクトに関する情報を「マルチステークホルダー」に対して報告することを目的としているのに対し、SSBJ基準は、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得るサステナビリティ関連の財務上のリスク及び機会に関する情報を「投資家」向けに報告することを目的としており、両者の目的、哲学は大きく異なっている。こうした中、SSBJとGSSBによる「より良い企業報告」に向けた上記基本合意はどのよう意味を持つのだろうか。・・・
GRIスタンダード : GRI(Global Reporting Initiative) が提供するサステナビリティ報告の基準である「GRIスタンダード」は、企業が経済、環境、社会(人権を含む)に与えるインパクト、すなわち持続可能な発展という目標へのプラス、マイナス両方の面について情報を提供することを目的とする。ESG課題等が企業に与える影響だけでなく、企業が社会や環境等に与える影響についての報告も重視しており、サステナビリティ報告の基準として世界で最も普及している。
マルチステークホルダー : 複数の利害関係者、具体的には、投資家、消費者、従業員、取引先、行政、地域社会など企業をとりまく幅広いステークホルダのこと。
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