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過去5年以内の政策保有株式の純投資目的への変更、有報での開示強化へ

政策保有株式の保有は資産の効率的運用を妨げ、上場会社のROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)を低める要因になっているとされる。コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)原則1-4でも、政策保有株式の縮減を促しているところだ。


ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。ROAは利益を総資産で除して求めるため、分母である総資産の増加はROAの低下をもたらす。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。

【原則1-4.政策保有株式】
上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

原則1-4のコンプライ率(「政策保有株式なし」と記載している会社は原則1-4を「コンプライ」しているものとして集計)は、プライム市場で95.05%、スタンダード市場で90.38%と高い(東証の「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」(2022年7月14日時点)24ページを参照)。

ただ、たとえ原則1-4をコンプライしている会社であっても、政策保有株式の残高が多いと資本コストを意識した経営ができていないとの烙印を押されかねない。また、議決権行使助言会社最大手のISSは政策保有株式を純資産の20%以上有する上場会社の経営トップ選任議案に反対推奨するとしている(グラスルイスはさらに厳しく、10%以上)。しかも、昨今の株高により政策保有株式の純資産に対する比率は上昇しており、議決権行使助言会社の定める基準に抵触する会社も増えている(株高によるISS等の基準への抵触については2024年9月9日のニュース「株高で政策保有株式の割合が上昇、ISS等の基準に抵触も」を参照)。

「資本コストを意識していない」と言われたくはないものの、本音では、ビジネス上の関係が強いなどの理由で政策保有株式を積極的に売却したくないという会社も少なくない。そのような会社が手を出しがちなのが、実際に政策保有株式を売却して縮減するのではなく、保有目的を見かけだけ「純投資目的」に変更する策だ。これにより政策保有株式が純資産に占める割合を低下させ、議決権行使助言会社が定める基準への抵触を回避しようというわけだが、保有目的変更後も政策保有株式という実態は何ら変わっていない。

金融庁はこのような実態を既に令和5年度の有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の段階で把握している(下記の「金融庁が認識した課題」を参照)。

金融庁が認識した課題
会社への質問等の結果、政策保有株式縮減の方針を示しつつ、政策保有株式に関して売却可能時期等について発行者と合意をしていない状態で純投資目的の株式に変更を行っており、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているような事例が認められた。また、政策保有株式縮減の方針を示しつつ、発行者から売却の合意を得た上で純投資目的の株式に区分変更したものの、実際には売却に取り組む予定は長期間なく、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているような事例も認められた。
令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等の37ページより引用)

令和6年度の有報レビューにおける法令改正関係審査では「政策保有株式及び純投資目的の株式の開示(株式の売却制限等及び長期保有株式の状況)」を調査項目の一つとして明示し、下記の質問を含む調査票を用いて現在審査を実施している。

調査票の質問項目
・保有目的が純投資目的である投資株式のなかに、発行者との株式持ち合いや株式の売却の制限(株式売却時期の制限を含む。)に関する合意又は発行体からの要望等により、機動的に売却できない株式は含まれていませんか。「含まれている」場合、機動的に売却できない具体的な理由(発行者との株式持ち合いや株式売却の制限に関する合意・発行者からの要望等の具体的な内容を含む。)及び純投資目的の株式に区分することが合理的と判断している理由
・保有目的を純投資目的以外から純投資目的に変更した株式のうちに、変更後長期間(1年以上)売却をしていない株式又は長期間売却を予定しない株式が含まれていませんか。「含まれている」場合、長期間売却していない若しくは長期間売却を予定していない具体的な理由及び純投資目的の株式に区分することが合理的と判断している理由

また、2024年6月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」でもこの課題が指摘されており、制度改正など今後の方向性が提言された(アクション・プログラム2024については2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」を参照)。

アクション・プログラム2024で指摘された課題
政策保有株式について、各社において縮減に向けた取組みが進められている一方、議決権行使の状況を含む実態を踏まえた開示等の適切な対応がなされていないとの指摘がある。特に保有目的について、純投資目的への変更についてはその理由の開示が求められていないことから、実態が不透明となっているとの指摘がある。その要因として、例えば、社内の関係者間(IR 担当や営業担当等)で認識に差があるとの指摘もある。また、他方で形式的に売却することは必ずしも望ましくなく、発行会社の経営の支援等を通じて保有の合理性を説明し得るような場合もあるため、適切に検証を行う必要があるとの指摘がある。

さらに、2024年8月に公表された「2024事務年度金融行政方針」では、「政策保有株式の開示の適切性について有価証券報告書レビュー等で検証を行うとともに、政策保有株式に係る開示事項の追加等を検討する」との方針も示されている(同方針の4ページを参照)。

こうした開示要請の高まりを受け、金融庁が新たに打ち出したのが・・・

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