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最高裁が収益還元法における減価を認めなかった理由は?

 上場会社にとって魅力ある未上場会社はしばしばM&Aの対象となるが、今後行われるM&Aのコスト(=株価)を引き上げかねない決定が先月(2015年3月)16日に最高裁で下され、話題を呼んでいる。このほど上場会社役員ガバナンスフォーラムはその文書を入手したので、内容の詳細を紹介したい。

 本件は、吸収合併により消滅することとなるA社の株主で、吸収合併に反対した甲が、A社に対して甲の有する株式を「公正な価格」で買い取るよう求め、裁判所に価格決定の申立てをした事案である。

 A社は発行済株式の総数338万7千株の非上場会社であり、同社の株式には、譲渡する場合に取締役会の承認が必要となる「譲渡制限 」が付いていた。そのA社は平成24年6月6日、上場会社B社との間で、同年10月1日付けで吸収合併(A社が吸収合併される側)する旨の合併契約を締結した。

 当該合併契約は、平成24年8月8日に開催されたA社の株主総会で承認されたが、A社の株式32万5950株(発行済株式総数の約9.6%)を保有する甲はこの吸収合併に反対し、同年9月12日、A社に対し「株式を公正な価格で買い取るよう」請求、同年11月21日、地裁に対し、株式の買取価格決定の申立てをした。

 裁判所の 鑑定人を務めた乙公認会計士は、A社株式は「収益還元法」により評価すべきとしたうえで、A社において将来期待される純利益を予測してその現在価値を合計すると、約3億6158万3000円になるとした(1株あたり106円)。ただ、A社のような非上場会社の株式は上場会社の株式のように株式市場で容易に現金化することが難しいため、「非流動性ディスカウント」として上記金額から25%の減価を行うべきとし、A社の株式の公正な買取価格は「1株あたり80円」であるとした。

収益還元法 : 将来期待される純利益を基に株式の現在の価格を算定する方法。「将来予測される単年度の税引後純利益 ÷ 資本還元率)÷ 発行済株式総数」により株価を算定する。「資本還元率」は市場金利、長期国債利回り、評価対象会社の調達金利等をベースとし、危険率を加味して決定する。

 地裁、高裁は乙公認会計士の意見を採用したが、これは、吸収合併に反対して会社から退出することを選択した株主には、「吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況」を確保すべきであるとの考えに基づくもの。実際、非上場株式であるA社の株式の換価は困難であり、このことはA社株式の経済的価値自体に影響を与えていることから、株価の算定にあたっては「換価の困難性」が考慮されてしかるべきとした。

 これに対し最高裁は、・・・

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