コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③では「取締役会全体の実効性評価」(以下、取締役会評価)を求めているが、このコードをコンプライすることに苦慮している企業が少なくないようだ。
4-11③ 取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。 |
もっとも、取締役会評価は欧米においては一般的に見られるプラクティスである。もともと取締役会評価は1990年代に欧米主要国で実施され始め、2001年のエンロン事件や2008年の金融危機を経て、その導入が推奨・促進されてきた。絶大な権限を握った経営者が業績拡大や株価上昇(ひいては報酬増大)に邁進するあまり、リスクを度外視した野放図な新規投資やM&Aに走ったり、会計不正などの企業不祥事に手を染めたりするような事態を、取締役会の監督機能が形骸化していないか否かその実効性を毎年見直すことで防ごうというのが、欧米における取締役会評価に期待されている役割と言える。
ただ、欧米流の取締役会評価がそのまま日本に馴染むかというと、そうではない。そもそも、日本企業が取締役会評価をする前に、「コーポレートガバナンス体制」が実効性の評価に耐え得るほど整備されているのかという疑問がある。多くの日本企業では、取締役会のメンバーの大部分が社内昇格者であり、そこでは専ら業務執行の個別案件が議論されている。このような典型的な日本企業の取締役会について「その執行を適切に監督できているか否か」を評価すると言っても、その前に「監督すらしていない」という“評価以前”の結果になりかねないのが実態だろう。こうした中で、欧米における取締役会評価のプラクティスを日本にそのまま導入したところで、適切に機能するとは到底思えない。
上述のとおり、欧米では「経営者の暴走」を防ぐために取締役会評価が実施されてきた。言い換えれば、欧米企業における取締役会評価は、「攻めのマネジメント」を前提とした「守りのガバナンス」の実効性を高めるために存在している。これに対し、日本企業には経営者を成長路線に駆り立てる「攻めのガバナンス」が求められているのは周知のとおりである。つまり、日本と欧米では状況が根底から異なっているわけだ。
したがって、日本企業は今後、日本企業特有の「攻めのガバナンス」に対応した取締役会評価のプラクティスを構築していくことになるものと予想される。具体的にみると、まず・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。