日銀が先月末(2016年1月29日)に国内初となるマイナス金利の導入を発表したが、これとは対照的に、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は昨年12月16日、実に9年半ぶりの利上げを実施し、今年も利上げを見込んでいる。不思議なのは、日銀、FRBともに、目標とする物価上昇率は「2%」と同じ水準であり、実際の物価上昇率が目標値を大きく下回っている点も共通しているということだ。同じ目標を掲げ、ともに実績が目標を下回っているという状況にありながら、日銀とFRBが正反対の金融政策を実施しているのはなぜだろうか?両者の違いからは、企業経営上も重要なヒントが見えて来る。
日銀が打ち出した「マイナス金利」とは、具体的には金融機関が日銀に保有する当座預金の一部に対してマイナス1%の金利を適用するというものだ。マイナス金利の適用により、金融機関は日銀の当座預金にお金を預けても、利息をもらうどころか、逆にその一部について日銀に手数料を支払うことになる。そこで金融機関は当座預金からお金を引き出し、貸出しに回さざるを得ない。また、マイナス金利の影響により銀行の預金金利も低下するため、消費者も預金するより消費にお金を使うだろう。これが日銀が狙うマイナス金利の効果である。日銀は2013年4月から資金供給量の拡大を目指して金融機関から長期国債やETFを買い入れる(その結果、金融機関が持つ日銀の当座預金の残高が増え、貸出しに回りやすくなる)量的・質的緩和を行ってきたが、足元の景気が不透明な中、物価上昇率2%という目標を達成には追加的な施策が必要と判断したようだ。
ETF : 上場投資信託(=Exchange Traded Fund)。日経平均株価やTOPIXの動きに合わせて動くように設計されている。文字通り投資信託自体が証券取引所に上場しているため、通常の株同様、証券会社を通じて売買できる。
日銀の政策とは真逆となるFRBの利上げが、回復の兆しを見せていた米国経済に対するデフレ圧力につながるリスクを伴うのは事実だろう。ただし、今回の利上げにより、FRBはリーマン・ショックのような金融危機が生じた場合に利下げや量的緩和に踏み切ることで市場心理を大きく改善する、という選択肢を手に入れた事実も見逃してはならない。一方、日銀にはマイナス金利の適用範囲の拡大や金利のマイナス幅の拡大といった選択肢は残っているものの、仮に金融危機のような事態が起きた場合には、FRBに比べると採り得る選択肢は限定されることになる。要するに、FRBは短期的なリスク・テイクと同時に危機発生時の選択肢を増やし、逆に日銀は短期的なデフレ脱却のために選択肢を減らした形だ。
これを企業経営に置き換えてみると、“FRB型”の政策の方が好ましいということになる。例えば、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。