印刷する 印刷する

リキャップCBは悪か?

周知のとおり、ROE(自己資本利益率)は「純利益 ÷ 自己資本」により計算される。このため、企業が事業活動を通じて得た利益が配当等として株主に還元されずに「自己資本」として蓄積されれば分母は大きくなり、ROEは下がることになる。

これを避けるため、最近は転換社債(CB)により調達した資金をもって自己株式を取得し、自己資本を圧縮する()ことでROEの向上を目指す企業が散見される。

転換社債(CB) : 株式に転換する権利が付いた社債。正式には「転換社債型新株予約権付社債」という。CBとは「Convertible Bond=コンバーティブルボンド」の略である。株価が上がった場合には株式に転換することができる一方、上がらなければ社債として保有し、利子を受取ることができる。社債の確実性と、株式の収益性を兼ね備えているのが転換社債の特徴である。

 自己株式の取得では、株主が企業に株式を渡し、その反対に企業は株主に現金を渡すことになる。したがって、これも株主に対する利益還元策であり、自己資本を減少させることになる。

CBで調達した資金で自己株式を取得すれば、自己資本が減少する代わりに負債(社債)が増える。このように、自己資本と負債のバランスを再構成することを「リキャピタライゼーション(recapitalization=資本の再構成)」という。そして、このように、資本の再構成のために発行される転換社債は「リキャップCB」と呼ばれる。リキャップCBにおける「リキャップ」とは「リキャピタライゼーション」の略である。

その一方で、このような財務手法を批判する声も聞かれる。ROE向上という資本市場から歓迎されるべき取組みが批判される原因は大きく2つに分けられる。

1つは「リキャップ(資本の再構成)」に対する批判だ。調達した資金をそのまま株主に渡すだけという経営努力を伴わないの行為によるROE向上は、有利子負債を増やすことで財務健全性を損なうだけであって、企業価値の向上とは無関係、というのがその根拠である。このような批判にも一理あるのは確かだが、企業価値向上につながる余地もある点には注意が必要だ。企業は財務戦略において、資本コストとリスクを踏まえて自己資本と有利子負債の適正なバランスと取る必要がある。債権者よりも株主の方が期待収益率が高い分、自己資本の方が債務よりも資本コストは高いが(資本コストの詳しい説明は「ディスカウント・キャッシュフロー」参照)、一方で、事業面で高いリスクを負っている企業は、リスクの顕在化に備え有利子負債を抑制する必要がある。従前はこのようなバランスについて十分な検討を行ってこなかった企業が、資本コストとリスクに関する精緻な分析に基づいて最適なバランスを導き出し、「自己資本が過大(=有利子負債が過小)」という結論に至ったとしよう。これはリスク管理と財務戦略の精緻化という“経営努力”に他ならない。適正なバランスを早期に実現するための手段としてリキャップを用いるのであれば、これは企業価値を高めるものと言ってよいのではないだろうか。逆に言えば、批判されるべきは、このような経営努力を伴わないリキャップであろう。

2つ目は・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから