米国トランプ大統領から日本の為替政策が批判されている。直接的な為替介入だけでなく、量的緩和など日銀の金融政策まで含めて為替レートを円安に誘導している、との趣旨だ。これに対し、菅義偉官房長官をはじめ日本政府は、躍起になって意図的な円安を否定している。政治的な動きはともかく、経営陣としては為替水準を再考する良い機会だろう。今日の為替水準は長期的には歴史的な円安局面にあるが、その事実が見逃されがちなためだ。
為替水準というと対米ドル・レートに目が行きがちだが、長期的な為替水準を把握するうえで注目するべき指標としては、米ドル以外の通貨や物価変動を考慮した「実質実効為替レート」の方が適切である。日本の貿易相手は米国に限定されないうえ、物価変動は国際的なコスト競争力に直接的な影響を与えるためだ。実質実効為替レートに注目すると、2016年12月末は76.3(2000年=100、通常の為替レートと異なり、数値の大きい方が円高である点に注意)とプラザ合意があった1985年9月時点の85.0を約1割下回る(円安の)水準になっている。ちなみに、85年9月の対米ドル・レートは236.91円だから、今日の水準がいかに歴史的な円安であるか分かるだろう。振り返ると、2008年9月のリーマン・ショック直後に急激な円高が進んだ時期もあったが、この時の実質実効為替レートによる円高のピークは2009年1月の106.8であり、これは05年1月の水準に戻ったに過ぎない。05年1月以前の5年間の平均は110.7だから、リーマン・ショック直後の為替変動は円高ではなく、05年以降に進みすぎた円安を修正する動きと理解する方が自然なのである。
実質実効為替レート : 例えば対米ドルで円高になっていたとしても、対ユーロに対しては円安ということが起こり得る。この場合、対米ドルでの円高をもって「円高」とは言えない。そこで、通貨の相対的な実力を測るため、他の国々の通貨に対する価値の上昇・下落を反映した指標が名目実効為替レートである。この名目実効為替レートの変化率から、相手国における物価上昇による通貨価値の下落分を考慮して算出されるのが実質実効為替レートである。
実は、05年以降および今日の円安に際しては、その前後に政策的な動きが見られる。「05年以降」の方では、量的緩和と大規模な為替介入が行われている。量的緩和は01年3月に始まり、その規模は04年1月にかけて拡大されている。また、為替介入は03年1月から04年3月にかけて行われ、累計で35兆円に達している。一方、今日の円安は12年12月の安倍政権誕生とほぼ時を同じくして進行し、翌13年4月の異次元の金融緩和を受けて加速している。これらの政策と為替変動の因果関係を特定するのは容易ではないが、結果だけ見れば、トランプ大統領が批判するように、政策的な円安誘導に見えてしまうのも事実だ。
では、このような現状を経営者はどのようにとらえるべきだろうか。
まず、・・・
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