近年、コーポレートガバナンスに対する株主の視線は益々厳しくなっているが、なかでも、上場会社にとって気になるのは、コーポレートガバナンスに高い関心を持つ“グローバル機関投資家”の目だろう。
こうしたグローバル投資家の関心事項を知る機会となったのが、グローバル機関投資家が集まるコーポレートガバナンスの世界的組織、国際コーポレートガバナンス・ネットワーク(International Corporate Governance Network、以下ICGN)が日本で13年ぶりに開催したカンファレンスだ(2014年3月3日、東京都中央区のロイヤルパークホテルで開催)。
ICGN は1995年の設立された非営利団体で、機関投資家を中心に会員数は約600にのぼる。CalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)、CalSTRS(カリフォルニア州教職員退職年金基金)、ブラックロック、フィデリティなど、著名なグローバル投資家も多く参加しており、それらによる総運用資産額は18兆ドルを超えるという。
カンファレンスの各セッションのテーマとポイントをレポートする。
【セッション1:コーポレートガバナンス改革と日本再興】
最近東証が主導した取り組みとして、(1)JPX日経インデックス400、(2)上場会社企業価値向上表彰、(3)有価証券上場規程の一部改正、の3つが説明された。(1)と(2)は上場会社にROE重視の経営を、(3)は社外取締役の設置を誘導することが目的。パネラーであるジェイミー・アレンACGA(アジア・コーポレートガバナンス・アソシエーション)事務局長は、各取り組みを高く評価しつつ、上場会社が遵守すべきコーポレートガバナンス・コードを制定する必要性を提起した。
【セッション2:投資家のスチュワードシップ・コード】
金融庁が先月2月26日に公表した「責任ある機関投資家の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)」が実効性を持つか占うため、モデルとなった英国スチュワードシップ・コードの運用状況が討議された。「遵守か説明か(comply or explain=ルールに従え。従わないなら、その理由を説明せよ)」のアプローチによるため、英国でも同コード遵守の程度には差があること、積極的に遵守するのは運用受託に際する差別化を狙った運用機関が中心であること、などが報告された。
【セッション3:企業のESGに関する報告】
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が世界の潮流となっており、コミュニケーション・ツールとして統合報告書に期待が高まっている。企業側の取り組みとしてオムロンから、投資家との対話が促進されたのみならず、社内における経営理念の理解度が高まったことが報告された。投資家側の意見としてCalPERSから、ESGのEは「生産資本」、Sは「人的資本」と捉えるべきで、関係者の間で未だに混乱が見られる点について懸念が示された。
【セッション4:アジアにおける独立社外取締役】
社外取締役を核とするコーポレートガバナンスがグローバルスタンダード化する中、アジア諸国ではどのような問題点が存するかが報告された。シンガポールでは同族企業が多く、機関投資家を敵視する経営者が多いため、社外取締役は辞める覚悟で株主に尽くす必要があると指摘された。ミャンマーでは関連当事者間取引なしではビジネスが成り立たないため、利益相反のチェックが極めて重要な実態が伝えられた。
【セッション5:自国と世界の投資家のより良い協力関係】
複数の機関投資家が協調して企業に働きかける、いわゆる「集団的エンゲージメント」について、英米で行われている実態と日本における可能性が討議された。米国では共同保有と見なされて開示が加重される(日本の金融商品取引法でも、「他の投資家」と共同して株主としての議決権等を行使することに合意している場合には、「共同保有者」として、他の投資家の保有分も勘案しながら大量保有報告書や変更報告書を提出する必要がある)ことを懸念する投資家が存在する一方、英国では「思慮深く、適切に行えば」問題はないと、それぞれの投資家から報告された。日本においては“公的”に実施すると反発が大きく、効果が望めないとの意見が出た。
以上から推察すると、グローバル機関投資家のコーポレートガバナンスにかかわる当面の注目点は、「統合報告書」と「集団的エンゲージメント」に集約されると言えそうだ。上場会社の役員としては、この2つのキーワードに引き続き注目しておくべきだろう。