近年、業績や株価などによって変動するインセンティブ報酬を導入する企業が相次いでいるが、インセンティブ報酬制度を設計する際にしばしば議論になるのが、報酬額の根拠として何をKPIに選定するのかという点だ。KPIが議論の対象になる要因の一つとして、経営陣が好むKPIと投資家が好むKPIが必ずしも一致しないということがある。分かり易い例を挙げると、投資家にとっては自らの利益に直結する「株価」に役員報酬が連動しているのが最も好ましい一方、経営陣から見れば、株価は自身の頑張りと連動するとは限らない(例えば、自社の業績は好調であるにもかかわらず、低迷する株式市場に足を引っ張られて自社の株価も伸びないケース)。経営陣にとっては、自身の頑張りと成果との因果関係が明確な「売上」のような指標の方が好ましいということになる。すなわち、経営陣がコントロールしやすい指標の方が経営陣にとって納得感があり、インセンティブ効果も高まると言える。
KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。
もっとも、経営陣の論理だけを押し通せば投資家は納得せず、逆に投資家の論理だけを尊重すれば経営陣にとってのインセンティブ効果は失われる。結論として、経営陣の視点と投資家の視点それぞれに配慮したKPIを複数選定し、両者のバランスを図る必要がある。ただし、選定するKPIの数があまり多くなると、経営陣・投資家双方にとって分かりにくいものとなってしまうため、KPIは厳選する必要がある。これは、強いメッセージを発信したい時に言葉を厳選して簡潔に表現するのと同じことである。
例えば・・・
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