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改訂CGSガイドラインが求める社外取締役の「再任基準」

今年(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)では新たに補充原則4-3③が設けられ、本則市場(証券取引所の市場一部・二部)に上場する会社は、取締役会がCEOを任期途中で解任するための「客観性・適時性・透明性ある手続」を確立することについてコンプライまたはエクスプレインが求められるようになった。

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-3③
取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。

CEOを巡っては、上記補充原則4-3③の新設による解任手続の確立のみならず、事実上、後任のCEOの指名権限を任意の指名委員会に、各役員への報酬の分配権限を任意の報酬委員会に移すことを求めるべく補充原則4-10①が改訂されたほか(2018年5月29日のニュース『改訂CGコードが意図する「独立した」委員会』、2018年8月29日のニュース「任意の報酬委員会の社内的位置付け」参照)、かねてから問題視されてきたCEOが取締役会の議長に就任することの是非についても、つい先日(2018年9月28日)、経済産業省に設置されている第2期コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)が公表した改訂版「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下、改訂CGSガイドライン)で「取締役会の監督機能を重視する場合には、社外取締役などの非業務執行取締役が取締役会議長を務めることを検討すべき」との提案が行われている(2018年9月19日のニュース「取締役会議長には誰が就任するべきか」参照)。

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針 : 経済産業省が昨年(2017年)3月にとりまとめた「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」のこと(通常、CGSガイドライン)で、「企業価値向上を目的として企業が具体的に検討すべき事項や取り組むべき事項を示す実務的な指針」と位置付けられる。具体的には、「取締役会の在り方」「社外取締役の活用の在り方」「経営陣の指名・報酬の在り方」「経営陣のリーダーシップ強化の在り方」について、コーポレートガバナンス・コードの各原則を補完する形で、企業に具体的な検討の着眼点を示すものとなっている。2018年9月に改訂版が公表された。

こういった一連のガバナンス改革は端的に言えば「CEOの権限基盤の弱体化」を目的にしている。その一方では取締役会議長や任意の指名・報酬委員会の委員長の座には社外取締役が就くことが推奨されていることと併せて考えれば、「CEOの権限基盤の弱体化」と「社外取締役の活用」は表裏の関係にあると言えよう。

ただ、「社外取締役の活用」に伴い社外取締役の活躍の場が広がり、会社の内実に対する理解も進んでくると、別の問題が生じる。それは社外取締役の“社内取締役化”だ。就任当初は社内取締役との適度な緊張関係のもと、外部の視点をもって株主の代弁者としての役割を果たしていた社外取締役も、就任から時間が経過するにつれ、少しずつ社内の常識や空気に流されてしまい、やがて社外取締役の存在意義である「独立性」は低下していく。

社外取締役の活用が叫ばれる中で、社外取締役の活用が進めば進むほど社外取締役の独立性が低下するというのは何とも皮肉な話だが、時間の経過とともにそれが不可避である以上、「社外取締役の活用」と同時に独立性低下への配慮も不可欠となる。そこで注目されるのが、「社外取締役の再任基準」だ。

改訂CGSガイドラインには次の一文が盛り込まれ、「社外取締役の再任基準」の検討が奨励されている(80ページを参照)。

社外取締役の再任基準を設けておくことを検討すべきである。

2015年(6月1日~)のCGコード導入時に設けられた社外取締役の独立性判断基準の策定・開示を求める原則4-9(今回は改訂なし)のコンプライ率が96%に達していることからすると(東証による2017年7月14日時点の調査結果の3ページを参照)、大部分の上場会社は少なくとも独立性判断基準を策定しているはずであり、さらに「取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべき」との一文を受け選任基準を設けた企業も少なくはないが、「再任基準」まで設けている企業は約24%に過ぎない(「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」(第2期CGS研究会の第3回会合における配布資料の「参考資料2」(回答数:941社)アンケート調査結果の20ページの56番 参照)。

【原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。また、取締役会は、取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するよう努めるべきである。

改訂CGSガイドラインでは、「一律に厳格な再任上限(就任期間の上限)を設けることまでは必要ない」とする従来からの記載が引き継がれつつも、改訂により次のような記載が追加されている(改訂CGSガイドライン79ページを参照)。

社外取締役の再任上限を設定した上で、それぞれの交代のタイミングをずらし、一定のサイクルで社外取締役が入れ替わるような仕組みを設けることで、社外取締役が中心となって社外取締役の選解任や再任を行うことに伴う社外取締役ポストの既得権益化といった問題を解消し、社外取締役の独立性を確保しやすくするとともに、取締役会の新陳代謝を実現するという観点からも、上限を設けることは有意義であると考えられる。
選任した社外取締役に問題がある場合に対処するための安全弁として、一定のサイクルで社外取締役が入れ替わるような仕組みを設けておくために、原則的な再任上限を社内規則等で定めておくことも考えられる

ただし、再任上限を設けると、それが社外取締役に「上限年数までの再任を保証するもの」と誤解され、上限年数に達する前に社外取締役を交代させることに支障が生じるおそれもあろう(改訂CGSガイドライン80ページの注釈59番を参照)。こうした事態を避けるためには、社外取締役就任時における候補者との交渉や、再任上限規定を設けることを社外取締役に説明する際に、「上限年数までは再任し続けられることを確約するものではない」旨説明するとともに、社外取締役選任基準や取締役会規程等で再任上限を定める場合には、「再任上限は●回(●年)までとする。ただし、本再任上限回数は、当該回数だけ会社が再任議案を株主総会に提出することまで保証するものではない」といった一文を入れておくのも一案だ。

もちろん、再任上限を設けること以外にも再任を止める方法はある。例えば「取締役会への出席率」「他の上場企業の役員の兼任社数制限」「再任時の年齢制限」といった定量的基準に加えて、「自社グループ内の各事業に対する理解の深さ」「取締役会での発言の積極性」「出身企業や社外役員兼任先企業のレピュテーションの悪化」といった定性的基準を設け、・・・

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