日本の株式市場でも自社株買いが頻繁に見られるようになった。日本企業には、過剰な内部留保により、資本構成に問題を抱えているところが多い。伊藤レポートでは、グローバルな機関投資家が日本企業に期待する株主資本コスト(投資家が求めるリターンの最低水準)の平均が7%超であるとの調査結果を踏まえ、銀行借入金利よりもだいぶ高い「最低限8%」のROEを目指すことを企業に説いている。このように株主資本コストは他人資本コストよりもはるかに高い(株式投資の方が貸付けよりもリスクが大きいため)にもかかわらず、それが経営者に意識されていないことが過剰な内部留保を招く要因となっている。
資本構成 : 企業の資本の調達源泉の構成のことで、具体的には自己資本(株主から調達したもの+企業内に留保された利益。株主資本と同義)と他人資本(借入金、支払手形、買掛金など)からなる。他人資本の比率が高いと、財務レバレッジ(株主資本/総資産)が高まり、自己資本よりも大きな取引ができるため資金効率は向上するが、支払い利息が増えて倒産リスクが高まる。逆に、自己資本の比率が高まると、財務の安全性は高まるが資金効率は悪くなる。企業価値を最大化する自己資本と他人資本の構成比を「最適資本構成」というが、最適資本構成の理論的な算出方法には明確な答えがない。
ROE : Return On Equity=自己資本利益率(当期純利益/株主資本)
こうした中、企業に対して自社株買いを求める投資家が少なくない。自社株を買えば、当該自己株式の取得価額が自己資本から控除される(すなわち、ROEの分母である自己資本が少なくなる)ためROEが高まり、その結果、自社株買いを行った企業は投資家から評価され、株価が上昇する(企業価値が高まる)ことも多い(内部留保とROEの関係については2018年4月18日のニュース「10%超のROEを持続させるためのM&A」参照)。
このように、自社株買いは一見すると企業や株式市場にとってプラスになる面が多いように見えるが、実はそうとも言い切れない。特に・・・
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