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日銀ETFによりガバナンスは低下したか

日銀が金融緩和策として大量の上場投資信託(ETF)を買い入れていることは周知のとおり。その額は2018年には過去最高の約6兆5千億円となり、同年末までの累計額は25兆円近くに達している。これは、同時期における全東証1部上場企業の時価総額「562兆円」の5%に迫る額であり、東証1部上場に属する一部の企業では日銀が実質的な「筆頭株主」となっている可能性があるとの指摘も聞かれる。下表は日銀によるETFの買入額を示したものだが、現日銀総裁の黒田氏が日銀総裁に就任した2013年以降、加速度的に買入額が増加していることが分かる。

ETF :Exchange Traded Fundの略で、日本語では「上場投資信託」と訳されているとおり、証券取引所に上場しており、証券取引所での売買が可能。ETFは、TOPIXや日経平均といった指数を構成する銘柄をこれらの指数と同じ割合で保有しているため、必然的にこれらの指数と同じ値動きをすることになる。

(億円)
年間 累計 備考
2010年 306 306 目標4.500億円/年、対象はTOPIX(東証株価指数)と日経225(日経平均株価)に連動するETF
2011年 8,646 8,952
2012年 6,843 15,795
2013年 11,252 27,047 目標を1兆円/年に増額
2014年 13,217 40,264 同3兆円に増額JPX400に連動するETFを購入対象に追加
2015年 31,615 71,879 同3.3兆円に増額、設備人材ETFを購入対象に追加(3,000億円)
2016年 46,220 118,099 同6兆円に増額
2017年 59,033 177,132
2018年 65,040 242,172 設備人材ETF が連動する指数にMSCI女性活躍指数を追加

日経225:東証1部上場銘柄のうち取引が活発で流動性の高い225銘柄を選定したうえで算出されることからこう呼ばれる。

設備人材ETF:設備投資や人材投資に積極的に取り組む企業で構成されるETF。株価指数の算出やポートフォリオ分析などのサービスを提供する米国の金融サービス会社MSCIが算出した「日本株人材設備投資指数」や野村證券が算出した「野村企業価値分配指数」など、日銀が“適格認定”した指数に連動するETFが日銀による購入対象となる。

日銀によるETF購入は主に株価下落の局面において実施されてきた。直接的な株価上昇よりも、株価下落による損失リスクを抑制することで株式投資を活発化させる(すなわち、間接的に株価を上昇させる)ことを目的しているからだ。日銀によるETFの買い入れがスタートした2010年からTOPIXは約2倍となっており、アベノミクスの諸政策と相まって一定の効果はあったと言えるかもしれない(ただし、同期間におけるニューヨーク・ダウは3倍を超える上昇となっていた)。

一方で、日銀によるETF購入のデメリットとしては、主に下記のようなものが取りざたされている。

⓵日銀の財務リスク
株価下落によって含み損が発生、日銀の財務基盤が揺らぎ、最終的には国民が負担を強いられる。
⓶売却時の株価下落
リスク資産であるETFを永久に保有することはできないことから、売却時には株価が大幅に下落する可能性がある
⓷株価形成の歪み
業績などにかかわらず一定の買いが入るため、不当な株価が付く
⓸ガバナンスの低下
公的機関が大株主になることで、ガバナンス強化へのプレッシャーが弱まり、結果としてガバナンスが低下する

このうち、根本的な認識の間違いがあると思われるのが・・・

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