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急速に変質する社外取締役の役割を踏まえた取締役会のあり方

2020年12月3日のニュース「見えて来たCGコード改訂の“柱”」でお伝えしたとおり、12月8日に開催される金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、「取締役会の構成」と「社内のダイバーシティ」がテーマとなる(会議の模様はこちらでライブ配信される)。当フォーラムが2020年11月19日のニュース「女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ」で改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に盛り込まれる方向である旨報じていた ①取締役会の「3分の1以上」の独立社外取締役の選任を求める、②「女性」「外国人」「中途採用者」の管理職への登用等の目標・状況を自主的かつ測定可能な形で策定し公表する、という改訂内容を含む改訂CGコードの一部の論点についての“取りまとめ”が示されることになる。

投資家などからは、「取締役会の3分の1」という独立社外取締役の割合について「不十分」との声も聞かれるが、政府は、まずは日本企業の取締役会に一定数の社外取締役を入れてモニタリング・ボードの“土台”を作り(モニタリング・ボードについては2020年11月4日のニュース「野村AM 取締役会のモニタリングボード化を期待」参照)、次のステップとして社外取締役の実効性を高めていくという二段構えの政策をとっている。最初からハードルを上げすぎれば“土台”を作ることさえできないからだ。

モニタリング・ボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会のこと。

しかし、社外取締役の実効性を確保するという観点からは、「3分の1」では不十分という指摘にも合理性はある。その理由の1つとして、ここ最近、社外取締役の役割が急速に変質していることが挙げられる。欧米では「株主第一主義」という考え方は見直すべきという議論が主流になりつつある中で、「社外取締役=株主の代理人」という考え方は既に古い。今や社外取締役には、株主の代理人という立場だけでなく、従業員、顧客をはじめとする様々なステークホルダーや環境問題にまで目配りをし、会社との利害を調整するという役割が求められている。社外取締役がこの役割を果たすためには、多様なバックグラウンドを持った人材が忌憚のない意見をぶつけ合えるという環境が欠かせない。社外取締役にダイバーシティが求められる理由もここにある。

ただ、現状、多くの日本企業の取締役会は業務執行者である社内取締役を中心に構成されており、社外取締役が取締役会をリードしているという雰囲気はない。リード役が社内取締役である場合、広い目でステークホルダー等との利害調整を図ることが難しくなる大きな原因が、取締役会における「ヒエラルキー」の存在だ。社内取締役には、会長・社長を筆頭に、副社長、専務、常務、平取といった序列があり、(企業カルチャーにもよるが)それが活発な議論を阻害している面は否めない。例えば平取が何か意見を述べたとしても、序列が上の取締役がそれを否定すれば、平取は意見を引っ込めるのが通常だろう。このように、ヒエラルキーのある取締役会が、多様なステークホルダー等との利害調整を適切に図ることが難しいのは必然と言える。

取締役会について日本企業と欧米企業が比較される場合、「社内取締役中心か社外取締役中心か」という点にフォーカスが当たることが多いが、実は日本企業と欧米企業の取締役会の最も重要な違いは、フラットかどうか(ヒエラルキーがあるかどうか)という点にある。もっとも、欧米企業の取締役会がフラットなのは取締役会が社外取締役中心に構成されているためであり、両者は表裏一体の関係にある。取締役会のメンバーがフラットな関係であるからこそ、各メンバーがそれぞれの立場で自由な意見を出しやすく、様々なステークホルダー等との利害調整もフェアにできる。そもそもフラットに議論ができなければ、たとえ社外取締役のダイバーシティを確保してもそれが活きて来ない。この点、現在の多くの日本企業の取締役会は、ステークホルダー等との利害調整を担うべき社外取締役が社内取締役のヒエラルキーの影に隠れて存在感が薄くなっているという構図になっているとの指摘もある。

では、このような状態を解消するにはどうすればよいのだろうか。その方法としては2つ考えられる。1つは、・・・

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