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「パートナーシップ構築宣言」を利用したSDGsウオッシュに懸念の声

下請企業との共存共栄を謳いながら、実際には下請企業を都合よく使っているだけに過ぎない発注元企業は少なくない。そのような発注元企業が襟を正す機会となりえるのが「パートナーシップ構築宣言」だ。

「パートナーシップ構築宣言」とは、内閣府に設置された「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」がひな形を作成し、2020年5月18日開催の同会議で公表したもので、企業が「発注者」の立場で「サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携(企業間連携、IT実装支援、専門人材マッチング、グリーン調達等)」「振興基準の遵守」に重点的に取り組むことを宣言するもの。宣言は代表者名で行われることから、企業トップが内容にコミットする格好になる。宣言を行った企業数は10月1日現在で1,597社(登録がある都度増加)となっている。9月27日時点の1,519社からわずか4日で78社も増えており、今後もさらなる増加が見込まれる。

振興基準 : 下請中小企業振興法に基づく、親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行のこと。例えば取引対価決定の際の協議、契約条件の書面交付等が挙げられる。

「パートナーシップ構築宣言」を行った企業名や各社における具体的な宣言の内容は、「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトで確認可能となっている。「発注者」でさえあれば、宣言を行うにあたり企業規模の大小は問わないこともあり、比較的小規模の企業が目立つが、経済産業省によれば、9月27日時点で宣言を行った1,519社のうち268社が資本金10億円以上の大手企業であった。

例えばトヨタ自動車は、下記の「パートナーシップ構築宣言」を行っている(注釈部分は当フォーラムが追加)。

「パートナーシップ構築宣言」

当社は、サプライチェーンの取引先の皆様や価値創造を図る事業者の皆様との連携・共存共栄を進めることで、新たなパートナーシップを構築するため、以下の項目に重点的に取り組むことを宣言します。

1. サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を越えた新たな連携
直接の取引先を通じてその先の取引先に働きかける(「Tier N」から「Tier N+1」へ)ことにより、サプライチェーン全体での付加価値向上に取り組むとともに、既存の取引関係や企業規模等を越えた連携により、取引先との共存共栄の構築を目指します。その際、災害時等の事業継続や働き方改革の観点から、取引先のテレワーク導入など、多様な事情・環境・条件に合わせた業務の実施や BCP(事業継続計画)策定の助言等の支援も進めます。
更に、業界連携による自動車関連企業の資金調達を支援する「助け合いプログラム」に参画し、日本のものづくりに必要不可欠な取引先の技術・人財・技能を守り抜く取組みを進めます。

2. 「振興基準」(*1)の遵守
親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行(下請中小企業振興法に基づく「振興基準」)を遵守し、取引先とのパートナーシップ構築の妨げとなる取引慣行や商慣行の是正に積極的に取り組みます。

①価格決定方法
不合理な原価低減要請を行いません。取引対価の決定に当たっては、下請事業者から協議の申入れがあった場合には協議に応じ、労務費の上昇に伴い取引価格見直しの要請があった場合には、十分に協議します。取引対価の決定を含め契約に当たっては、親事業者は契約条件の書面等による明示・交付を行います。

②型管理(*2)などのコスト負担
型の取扱いに関する覚書を参考に取引を行い、型管理の適正化に取組み、不要な型の廃棄を促進するとともに、量産終了後の型の無償保管要請は行わないよう十分に配慮します。

③手形などの支払条件
下請事業者との取引に対する下請代金は、全額現金で支払います。

④知的財産・ノウハウ
契約上知り得た下請事業者の知的財産権やノウハウ等に関して、下請事業者に損失を与えることの無いよう、十分に配慮します。

⑤働き方改革等に伴うしわ寄せ
働き方改革が及ぼす下請事業者への影響に配慮しつつ、取組みを阻害し、不利益となるような取引や要請は 行わないように努め、やむを得ず、短納期又は追加の発注、急な仕様変更などを行う場合には、増加コストを負担するよう努める。災害時等においては、下請事業者に取引上一方的な負担を押し付けないように、また、事業再開時等には、できる限り取引関係の継続等に配慮します。

3.その他
トラック運転者不足に対応し、国民生活や産業活動に必要な物流を安定的に確保するとともに、経済成長に役立つことを目的とした「ホワイト物流」に関する「自主行動宣言」に参画し、取組みを推進します。

2020 年 8 月 26 日

トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田 章男

*1 振興基準とは、下請中小企業の振興を図るため、下請事業者及び親事業者のよるべき一般的な基準として、下請中小企業振興法第3条第1項の規定に基づき定められたものである(振興基準の概要について説明する中小企業庁のサイトはこちら)。振興基準は2021年3月31日に改正され、手形等の支払サイトの短縮化および割引料負担の改善が示された(【役員会 Good&Bad発言集】手形支払い参照)。
*2 型管理については、2020年1月10日のニュース『「型」の保管料を発注側が負担すべき類型と廃棄時期の目安』を参照。

手形等の支払サイト : 手形等の振出日から現金化されるまでの期間のこと。

トヨタ自動車は「下請事業者との取引に対する下請代金は全額現金で支払う」(上記宣言の2③を参照)としている。トヨタ自動車が宣言を行ったのは1年以上前であり、宣言時期の早さからも日本を代表する発注企業としてのリーダーシップを垣間見ることができる。このほか、型管理(上記宣言の2②参照)については「無償保管要請は行わない」、支払手形(同③参照)については「全額現金で支払い」とするなど模範的な姿勢を示しているが、⑤の「働き方改革等に伴うしわ寄せ」では「努める」と述べるにとどまっている。

パートナーシップ構築宣言を行った企業は、事実上政府が公認する「ロゴマーク」の使用が可能となる。ロゴマークを名刺やウェブサイトなどに記載することで、下請企業に対する自社の取り組みをPRすることができる。また、経済産業省が実施する一部の補助金で加点措置を受けられる。さらに、宣言により、SDGsの17の目標のうち実に5つの目標に取り組んでいることになる。こうした利点をまとめたのが下記の図である(経済産業省のサイトより引用)。

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上場企業にとって何と言っても大きいのは、宣言によりSDGsの目標を5つもカバーできるという点だろう。これらの目標を既に別の取り組みによりカバーしているという上場企業も少なくないと思われるが、取り組み中の施策として統合報告書などに記載できる項目が増えることは投資家へのアピールとなろう。

ただし、懸念されるのは、“SDGsウォッシュ”を目当てとした宣言が相次ぐことだ。当フォーラムがある上場企業の下請企業を取材したところ、・・・

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