日本でもSDGsの考え方が相当に普及してきた。それに伴い、上場企業では、企業価値を長期的かつ持続的に向上させるためには、サステナビリティ(持続可能性)への配慮が必要不可欠であることが強く意識されるようになりつつある。ただ、一口にサステナビリティと言っても、その主体によって「企業自身のサステナビリティ」と「社会全体のサステナビリティ」に分けて考える必要がある。そして、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティの両者が整合的でなければ、いずれかが達成しえなくなることから、2つのサステナビリティは「同期化」させなければならない。この同期化のために必要な経営・事業の変革(トランスフォーメーション)が、最近耳にすることが増えた「サステナビリティ・トランスフォーメーション(以下、SX)」だ。
SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
こうした中、経済産業省は2021年5月、伊藤レポートで知られる伊藤邦雄氏(一橋大学CFO教育研究センター長)を座長として「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会」(SX研究会)を立ち上げ、SXの実現に向け、企業や投資家等に求められる取り組みを具体化させるための議論を1年以上にわたり重ねてきたが、2022年8月30日、その結果を「伊藤レポート3.0」として公表している。
周知のとおり、伊藤レポートの第一弾は2014年に公表され、上場企業に資本コストを上回るROEの達成、とりわけグローバルな投資家と対話する上場企業にとっての“最低ライン”として、8%を上回るROEへのコミットを求めた。また、同レポートの第二弾は、競争優位・イノベーションの源泉としての「無形資産投資」やESGへの対応の重要性を訴えるものとなっている。今回公表された「伊藤レポート3.0」は、それらのレポートの延長上に位置する。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率
「伊藤レポート3.0」のポイントを一言でまとめれば、・・・
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