「安く仕入れることができるのであれば多少のことは目をつぶる」という従来の企業の行動様式が本格的に変革を迫られている。米国では強制労働が問題となっている新疆ウイグル自治区からの輸入を原則として禁止する法律(ウイグル禁輸法)が2022年6月に施行され、欧州委員会はこの9月14日、強制労働によって製造された製品のEU市場での流通を禁止することを提案している。欧米のルールは、たとえ自社が強制労働に関わっていなくても、自社が属するサプライチェーンの中で強制労働が行われていれば、自社製品を流通させることができなくなることを意味する。一方、日本では法規制の導入までには至っていないが、9月13日には政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を確定し、公表した。企業が直面している人権問題は、強制労働以外にも児童労働、女性差別や人種差別、劣悪な労働環境、環境汚染など多々存在し、自社だけではなく、自社を含むサプライチェーン全体として問題の解消に取り組まなければならない。その取り組みにあたっての指針となるのが本ガイドラインだ。
欧州委員会 : 欧州連合(EU)の政策執行機関
本ガイドラインは経済産業省に設置された「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」が2022年8月8日に公開草案を公表し、8月29日までパブコメを募集していたもの(公開草案については2022年8月25日のニュース『「ビジネスと人権」、サプライチェーン重視鮮明』参照)。検討およびパブコメの主体が経産省である本ガイドラインが「日本政府」のガイドラインとして公表されたということは、本ガイドラインが、日本政府が国連指導原則(日本語訳はこちら)を踏まえ2020年に策定・公表した「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」の延長上にあり、日本政府によりコミットされたものであることを示している。
国連指導原則 : 2011年に国連の人権理事会で全会一致で支持された文書で、「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの柱から構成される。企業活動における人権尊重の指針として用いられている。
公開草案に対しては、131の団体・事業者・個人から計706個にものぼるコメントが寄せられた。本ガイドラインに対する関心の高さがうかがえる。寄せられたコメント数が多いこともあり、公開草案と確定版を比較すると修正箇所は多岐にわたる。コメントに対する経産省の考え方は、同省が確定版の公表にあわせて公表した『「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に係る意見募集の結果について』(以下、経産省の考え方)により明らかにされている。経産省の考え方は全部で141ページとボリュームがあることから、すべてに目を通すことは容易ではない。そこで当フォーラムでは、主な修正箇所や指摘事項を下表のとおりピックアップした(番号は経産省の考え方におけるNo.に対応)。・・・
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