2023年5月、企業会計基準委員会(ASBJ)はついに「リースに関する会計基準(案)」(以下、リース会計基準案)の公表したところだ。現在の日本の会計基準では、名目上は同じリースでも「ファイナンス・リース」(借入れによる物の購入とみなされるリース)と、「物を借りて賃借料を払う」という本来のリースである「オペレーティング・リース」では会計処理が異なる。具体的には、ファイナンス・リースではリース資産をB/S上の「資産」に計上するとともに、リース債務(未経過リース料)をB/S上の「負債」にそれぞれ計上することが求められる(バランスシートに計上するという意味でこれらを「オンバランス」という)のに対し、オペレーティング・リースは、毎期の支払いリース料を費用計上するだけで済み、B/Sには何も計上しなくてもよい(=オフバランス)。オフバランスであれば、ROAの分母が小さくなり、さらに負債も計上しなくてよいといったメリットがあるため、ファイナンス・リースの要件を上手く外したオペレーティング・リースを利用している企業も少なくないものと思われる。
ファイナンス・リース : 「支払いリース料総額の現在価値が、見積もり現金購入価額の90%以上」または「リース期間が耐用年数の75%以上」で中途解約もできないリースを指す。
ROA : Return On Assets = 総資本利益率。「利益/総資産」により計算される。ROAは利益を総資産で除して求めるため、分母である総資産の増加はROAの低下をもたらす。なお、実務上は、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
しかし、世界に目を向けると、2016年1月には国際会計基準審議会(IASB)が国際財務報告基準第16号「リース」(以下、IFRS第16号)を公表、同年2月には米国財務会計基準審議会(FASB)がTopic842「リ「ース」(以下、Topic 842)を公表し、いずれにおいても、オペレーティング・リースを含むすべてのリースは「資産および負債」に計上することが求められている。日本の会計基準との比較では、特に「負債」の認識の違いを問題視する声が大きい。こうした中、日本の会計基準もようやく国際的なルールとの整合を図ったことになる。
新リース会計基準案は、IFRS第16号と同様に、ファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、すべてのリースを原則として資産計上するというシンプルなルールとなっている。小売業や物流業(倉庫)など多数の不動産リース契約を行っている企業はもちろんのこと、オフィスビルを借りている企業は業種を問わず、現行のリース会計基準でオペレーティング・リースとして賃借処理してきたものを今後は資産(使用権資産)として計上(負債としてリース負債も計上)しなければならなくなるため、少なからず影響を受けることが予想される。
使用権資産 : 新リース会計基準では、現行の「リース資産」は「使用権資産」となる。「使用権資産」とは、借手が原資産(リースの対象となる資産)をリース期間にわたり使用する権利を表す資産のことをいう。
リース負債 : 新リース会計基準では、科目名が「リース債務」ではなく「リース負債」となる。
(1) 財政状態に与える影響 ※数値はイメージ(以下同)
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