2023年の3月決算上場会社の株主総会シーズンが終了したが、本年の株主総会の最大の特徴は、例年になく株主提案の数が多かったことだ。2023年3月総会~6月総会の株主提案の数を調査したところ、78社に対して株主提案が行われ、議案の総数は305議案にのぼっている(2023/3/1~6/30時点までに提出された臨時報告書を集計、動議を除く。)そのうち122議案で賛成率が20%を超えており、19議案は可決に至っている。いずれもここ10年間において最多となった。3月末に東証が行ったPBR1倍未満の企業に対する改善要請以降、日本市場は海外投資家からも注目され、日経平均はバブル期の最高値に迫る勢いで上昇している。“日本買い”のテーマは、完全に「ガバナンス改善期待」となっている。本格的な株主アクティビズムがついに日本でも始まったと言えるだろう。
動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
株主提案の主張の多くは、政府や東証が主導するコーポレートガバナンス改革の方向性をそのまま具現化している。投資ファンドだけではなく、個人による株主提案にもそのような傾向が見られ、「株主共同の利益」という極めて真っ当な視点から企業に対応を求めている。したがって、これに対する企業の取締役会の反対意見はいずれも“苦しい言い訳”となっている。例えば、いくつかの企業は株主からの資本コストの開示要求に対して、・・・
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
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