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コンサルに数千万円はザラ 中堅以下の上場企業がサステナビリティ分野で“全方位戦略”を取ることの是非

株式会社レクタスパートナーズ 代表取締役 藤澤正路

ここ数年、発行体企業・機関投資家の双方においてサステナビリティという概念の存在感が大きくなっている。このことに疑問の余地はないだろう。 世界中でESG投資という言葉がニュースを駆け巡り、日本でも気候変動に関する株主提案が上程され、欧州では人権デューデリジェンス等の実施が義務化される法案が承認された。なかでも気候変動対応の負荷があまりにも大きかったこともあり、「次は何か?」と戦々恐々としている発行体企業等も少なくない。一方、サステナビリティという概念を咀嚼することで、自社が本来なすべきことは何かを真剣に考え直したという発行体企業もある。


ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
人権デューデリジェンス : 企業活動を通じて引き起こしあるいは助長し、またはその取引関係によって企業の事業、商品またはサービスに直接関係する人権への負の影響を特定したうえで、それをどのように防止・軽減するかについて責任を持つこと。自社の社員のみならず、仕入先(直接仕入先だけでなく間接仕入先も含む)や販売先、最終顧客も人権デュー・ディリジェンスの対象とすることが望ましいとされている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

周知のとおり、財務会計の世界的基準であるIFRSを開発しているIASB(国際会計基準審議会)の監督団体はIFRS財団であり、そのIFRS財団の傘下には、サステナビリティ開示基準を開発しているISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が存在する。ISSBは2024年4月まで、「気候変動の“次”に基準を作るべきテーマは何か?」について議論していた。 候補として挙がっていたのが、「生物多様性・生態系・生態系サービス」「人的資本」「人権」「報告における統合」の4つのテーマだ。そして、パブリックコンサルテーションを通じ、「生物多様性・生態系・生態系サービス」「人的資本」の2つを次テーマの候補として調査を進めることが決まる一方で、「人権」は“中長期的な検討事項”として先送りとなった。 ただし同時に、今後2年間は既に発効済みの基準の浸透に集中することも発表され、“次”のテーマの確定までには時間があることが明確になった。発行体企業にとっては、備えるべき項目にアタリがつくとともに、時間的な猶予も生まれたということになる。


ISSB : International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

一方、機関投資家に目を移すと、重要な組織としてUN PRI(国連責任投資原則)が旗振り役となっているイニシアティブがある。例えば、人権をテーマとして取り扱うイニシアティブは「Advance」 と呼ばれ、世界で265の機関投資家等が参加している(2024年6月末時点)。 Advanceは、人権およびその他の社会課題の解決を目指す機関投資家による協働イニシアティブとして2022年12月1日に発足した。参加している機関投資家は、協働エンゲージメントへの参加等を通して、労働者や事業活動を行う地域社会における人権問題の解決に向けた取り組みを投資先企業等に促す、としている。なお、Advanceには生保や一部大手機関投資家等、計23の日系団体が参加している。Advanceの“生物多様性版”と言えるのが「Spring」だ。2024年6月時点で、Springへの賛同者は204社に上り、そのうち12社は日系の生保や一部大手機関投資家となっている。


UN PRI :(UN=国連)PRIとは「(United Nations) Principles for Responsible Investment」の略で、機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するESG投資の世界的なプラットフォーム。PRIに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
協働エンゲージメント :複数の投資家が協調して個別の投資先企業に対し特定のテーマについて対話を行うエンゲージメントのこと。各投資家の質的・量的なリソース不足を補い、対話の実効性を高めると言われている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

これら2つのイニシアティブへの参加団体のリストを確認すると、共通する特徴に気付く。それは、・・・

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