周知のとおり、コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-1②lは、取締役会・経営陣幹部に対し「中期経営計画」を株主に対するコミットメントと認識し、その実現に向けた最善の努力を求めている。しかし、日本企業の中期経営計画はしばしば「絵に描いた餅」と揶揄されるように、実効性に疑問が残るものも散見され、実際、未達に終わることも少なくない。果たして、現状の日本企業の中期経営計画は「企業価値向上」という観点から、どれだけの意味があるのだろうか。
日本企業の中期経営計画は、各事業部から出て来た数字を経営企画部門が統合して予算化する“積み上げ方式”により策定されるのが一般的となっているが、この策定プロセスは、中期経営計画を「絵に描いた餅」にする一因になっていると思われる。経済産業省が2024年5月に公表した「製造業を巡る現状と課題、今後の政策の方向性」では、日本企業にしか存在しない「経営企画部門」について、経営企画部式の予算編成とバケツリレー方式の情報展開により、全社的な経営視点での議論が最後の工程になってしまう傾向が指摘されている(17ページ参照)。その結果、取締役会が中期経営計画の策定プロセスに関与する密度は低くなる。また、米国企業と異なり、FPA部門が設けられていなかったり、CFOの権能が財務経理に限定されがちだったりと、企業価値に責任を負う組織体制が未整備なことも問題であろう。このような日本企業における中期経営計画の策定プロセスと組織体制によって「有効な経営計画の策定」と「経営計画の達成責任」が担保されているのかは疑問が残るところだ。また、計画の達成に向けた動機付けの弱さも、計画が未達に終わる原因の一つと考えられる。
FPA : 「Financial Planning &Analysis」の略称で、業務管理および財務計画の立案、財務データの分析を行う職種(またはその業務)を指す。職種としてのFP&AはCFOの配下に直属していることが多く、財務予測、すなわち現在および過去の財務データに基づき将来の収入、支出、利益、キャッシュフローを予測することが最も重要な任務となる。CFOは、FP&Aが作成した財務予測に基づき、事業の将来について長期的な意思決定を行う。 FP&Aには、管理会計に関する深い知識が求められる。
では、中期経営計画の望ましい策定プロセスとはどのようなものだろうか。バックキャスティング方式や積み上げ方式など策定方法の解説は世に溢れているが、ここでは「策定プロセスの規律付け」に着目し、その手段として、・・・
バックキャスティング方式 : 数年後の経営環境を踏まえた目標を起点に、そこから逆算して現在までのロードマップを描くこと。
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