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「加速型」自社株買いのリスク

2024年も2か月を残すのみとなったが、今年の株式相場における需給の主役は何といっても自社株買いだ。1~9月の累計額(取得枠設定ベース)は12兆円を超え、既に通年の過去最高額を大きく上回っている。自社株買いは手元資金が豊富な大企業だけでなく、上場して間もない企業にも広がっており、その手法も変化している。8月初旬の株価急落局面でも迅速な自社株買いが見受けられたが、その中でも注目したいのが「加速型自社株買い」(Accelerated Share Repurchase:ASR)と呼ばれる手法だ。

一般的な自社株買いを市場買付けにより行う場合には、株価に影響しないよう2~3か月かけて執行される。これに対し加速型自社株買いとは、証券会社が機関投資家や大口の株主から(自社株買いを実施する企業の)株を借りて市場で売却し、企業がその株を買い戻す形で自社株買いを実現する仕組みで、“加速型”という名称のとおり、企業が迅速に大量の自社株を取得するのに適している。加速型自社株買いは米国では古くから普及しているが、日本では2022年8月にホームセンター大手のジョイフル本田が活用したのが初めてであり(当時の同社のリリースはこちら)、まだ事例は少ない。こうした中、今年5月、発行済み株式の5%強にあたる350万株の加速型自社株買いを発表したのが円谷フィールズホールディングス(以下、円谷フィールズ)だ(円谷フィールズのリリースはこちら)。

本事例では、SMB日興証券が円谷フィールズの大株主から同社の株を借り、その全株について、円谷フィールズが東京証券取引所のシステムを利用して5月 15 日付の同社の自社株買いに応募(同社に売却)することにより執行された。近年、自社株買いの規模が大型化する中、上限まで自社株を取得できないケースも多く、また、取得期間中にM&Aなどインサイダー規制の対象となる重要事実が発生したことにより取得を中断せざるを得ないケースもあったが、加速型自社株買いでは・・・

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