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第三者割当増資から考える対抗措置の本質

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

同意なき買収の増加に伴い、その「対抗措置」が注目を集めている。ニデックに同意なき買収(TOB)を提案(ニデックは5月9日付でTOBを撤回)されていた牧野フライス製作所が、対抗措置として、買収提案者がTOBを行った場合には「買収者を除く株主」に対し有利発行を受ける権利を与える新株予約権を付与するポイズンピルを採用したように(2025年3月24日のニュース「買収防衛策導入で取締役が「信認義務に違反していない」と判断されやすい3つのケース」参照)、近年、対抗措置としてはポイズンピルが最も一般的となっている。これに対し、2000年代前半に最も有効な対抗措置と言われ頻繁に採用されたのが「第三者割当増資」だ。なぜ現在は対抗措置としての第三者割当増資を見かけなくなったのだろうか。


有利発行 : 例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行することをいう。
ポイズンピル : 「敵対的買収者が被買収企業の株式の一定割合を取得した場合、既存株主は時価より安い価格で新株を購入できる」という権利(ライツ)を既存株主に与える手法。新株が発行されれば、敵対的買収者の持株比率は低下するとともに、1株当たりの株価も安くなり、敵対的買収者は大きな損失を被ることになる。「ポイズンピル(毒薬条項)という名称は、毒薬が回って体が弱るようなイメージがあることから来ている。

対抗措置として第三者割当増資が採用されたケースとして有名なのが、製紙業界第1位の王子製紙に同意なき買収を提案された北越製紙によるものだ(2006年8月に実施)。王子製紙は北越製紙を経営統合することにより、王子製紙の古い設備を廃棄し、北越製紙の最新設備に一本化することで生産効率を高めるとともに、業界再編も目指した。

王子製紙は1株860円の現金対価で北越製紙の全株式を取得することを表明したが、北越製紙はこれに猛反発する。取引先である三菱商事に第三者割当増資を実施し、三菱商事は北越製紙の株式を24.1%取得した。また、第四銀行など北越製紙の大株主に対し王子製紙のTOBに応じないよう協力を求め、さらに業界第2位の日本製紙グループが北越製紙株を8.7%取得。こうした北越製紙による対抗措置の結果、王子製紙は北越製紙の株式をわずか5.3%しか集めることができなかった。

当時、この買収劇が失敗に終わった原因は、北越製紙と話し合いをしていたにもかかわらず敵対的TOBに踏みきった王子製紙にあるとの論調が強かった。しかし、それは“的外れ”と言わざるを得ない。TOBが成立しなかった一番の原因は、・・・

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