フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男
6月の株主総会シーズンを前に、今年もアクティビストの動きが活発となっている。現在、日本は米国に次ぐ世界2 位の“アクティビスト大国”となっており、アクティビストの公開キャンペーンを受けた日本企業の数は年々増加している。
アクティビストはいわゆるバリュー投資家であるため、株価が「企業価値」を大きく下回っている企業に投資する。ただ、一般的なバリュー投資家と違って分散投資のメリットを放棄しており、短期の企業価値ではなく中長期的な企業価値である「本源的価値」を享受したいと考えている。すなわち、経営方針改善のカタリストとなり、株価を本源的価値に近付け、その段階でエグジットすることを志向している。
バリュー投資家 : 企業の財務状況、業績、資産価値などを分析し、企業の本質的な価値(ファンダメンタルズ)に対して市場価格が過小評価されている銘柄を探し、長期的な視点で投資を行う投資家のこと。
カタリスト : 元々は「化学反応を促進する物質」である触媒(Catalyst)のことだが、そこから派生して、株価や株式市場などに対して重要な影響を与える要因という意味で使われる。
その証拠に、米国のリサーチ会社が公表しているアクティビストの公開キャンペーンのテーマを見ると、経営方針の改善を直接的に要求するもの(戦略、オペレーション、キャピタルアロケーション、M&A等)と間接的に要求するもの(取締役や経営陣の選解任)が上位を占めている。史上最大、最高額のプロキシーファイト(委任状争奪合戦)の一つとして衆目を集めた、ネルソン・ペルツ氏率いるトライアン・パートナーズによるディズニーへのプロキシーファイトで同氏は「我々はディズニーの変革を促進する十分な能力を有している。なぜなら、我々はブルーチップ企業に投資したうえで、取締役会に参画し、経営陣・取締役会と協力してコーポレートガバナンス、戦略、オペレーションおよびキャピタルアロケーションを最適化してきた豊富な経験を有しているからである。」と述べている。
キャピタルアロケーション : 調達した資金、事業活動を通じて得た資金をどこに投資するか、どのように使うかを判断すること
プロキシーファイト(委任状争奪合戦) : 株主総会において、会社提案の議案を否決したり、株主提案の議案を可決させたりするために、株主が会社の経営陣と委任状(議決権)を奪い合うこと。ファンド等の株主が、会社提案の否決または株主提案への賛成を求める委任状を他の株主に送付する形で行われる。自社が敵対的買収のターゲットとなった場合には、会社と買収者がともに委任状勧誘を行う委任状争奪合戦(プロキシー・ファイト=proxy fight)へと発展することが多い。
ブルーチップ企業 : 財務的に安定し、収益性や成長性に優れた優良企業のこと
アクティビストの公開キャンペーンの中で日本企業に対して多いのが、「キャピタルアロケーション」だ。キャピタルアロケーションをテーマとするキャンペーンは、①経営者が投資家から資本をどのように集めるかという・・・
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