フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男
2025年8月4日のニュース「東証、企業再編の利益相反対応を強化 MBO等の手続が厳格に」でお伝えしたとおり、東証は有価証券上場規程等の一部改正を実施し、上場廃止する上場会社の開示規制を強化している(2025年7月22日より施行)。第一号案件となったのが2025年7月25日に公表された太平洋工業のMBOで、同社は特別委員会の答申書そのものを開示した。「形だけ」というケースも少なくなかった特別委員会も、いよいよしっかり仕事をしなければならない時代に入ったと言える。
特別委員会 : 企業買収の公正性の確保を目的として設置される独立した合議体。企業価値の向上と一般株主の利益保護のため、企業買収の是非や取引条件の妥当性、公正性を検討・判断する。
M&Aによって株式市場から撤退する会社が増加する中、非上場化を公表後、株主が買収価格を吊り上げるバンプトラージ(Bumpitrage)を仕掛け、会社がこれに応じない場合には、裁判所に買収価格の修正の決定を求める手続(株式の価格決定手続)を求めるケースは後を絶たない。例えば、創業家らによる大正製薬ホールディングスのMBOや伊藤忠商事による伊藤忠テクノソリューションズの完全子会社化に対するものが挙げられる。東証による開示ルールの変更は、こうした動きを受けたものだ。
バンプトラージ(Bumpitrage) : 買収提案後に株を買い集め、企業価値評価の妥当性を問い、価格交渉を仕掛けて利益を得る手法である。
特集「MBOディスクロージャーの現状と方向性」でも触れたとおり、米国では株式価値算定書そのものを開示しなければならないため、それと比べると“緩い”を言わざるを得ないが、それでも大きな進歩であるのは間違いない。
ここで重責を担うのが特別委員会である。なぜなら、・・・
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