フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男
周知のとおり、アリマンタシォン・クシュタール(ACT)は2025年7月16日、セブン&アイ・ホールディングス(セブン)への買収提案の撤回を決定した旨のリリースを出している。その理由は、セブンが「真摯な協議」をしないからだという。セブンは、ACTの決定は不本意であり、リリースには多くの誤った記述があると批判しているが、ACTによると、今年初めに1株2600円で買収する旨の提案を行った後、スタンドスティル条項などを含む秘密保持契約を締結したものの、マネジメントミーティングは2回のみ、資産査定(デューデリジェンス)もごく限られたものにとどまったとのことである。では、なぜセブンの取締役は会社売却に反対し、また、なぜセブンの株主は取締役の行動に対し声を上げないのだろうか。その背景には、海外投資家も感じている日本のM&A市場に残る日本独特の3つの「ハードル」がある。
スタンドスティル条項 : 売手企業が買手候補企業に情報開示した後、買手が売手の承諾なしに株式取得や委任状勧誘などを行うことを禁止する条項。敵対的買収を防ぎ、M&Aを友好的かつ秩序ある形で進めることを目的とする。これにより、売手側は強引な買収のリスクを回避することができる一方、買手側は、敵対的買収の意思がないことを示すことで、売手との信頼関係を構築しやすくなる。スタンドスティル条項は買収の初期段階で設けられることが多く、 通常は秘密保持契約(NDA)の中に盛り込まれる。「Standstill」とは、動きや進展が止まっている状態を指す。
1つ目は、・・・
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