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AI役員が台頭 経営の意思決定の新常態

ChatGPTやGoogle Geminiなどの生成AIを含むAI全般の性能向上は、企業における業務を大きく変えつつある。会議の議事録の作成、文書の要約、提案書や顧客宛メールのドラフティング、リサーチ・分析、面接、配送トラックの効率的なルートの探索、電話オペレータの通話内容の評価など、企業内の様々な業務にAIが入り込んでいる。さらにAIは、「単純作業」の代替・効率化にとどまらず、「理解」「対話」「比較」「分析」「提案」「論点の抽出」「評価」「判断」「意思決定」といった人間にしかできないと考えられてきた高度で知的なプロセスも代替しつつある。

会議前の準備段階で生成AIにデビルズ・アドボケイトの役を担わせ、会議で提案する議案の内容をブラッシュアップさせる方法も浸透してきた。論点やリスクの抽出とその解消方法やコストの洗い出しなどを人間と生成AIとの間で事前に“壁打ち”することは、人間同士の議論よりも高レベルかつ有意義なものになる。


デビルズ・アドボケイト : 議論を深めるために意図的に多数派の意見に異を唱える役割のこと。相反する意見の双方を検討することで議論の深化を目指す。デビルズ・アドボケイトとは「悪魔の代弁人」や「悪魔の提唱」を意味し、元々はカトリック教会がローマ法王選出の際に候補者の欠点や奇蹟(人間の力や自然法則を超え、神など超自然のものとされる出来事)の疑わしさを指摘する役割を指す言葉であった。
壁打ち : 生成AIに対して質問を投げかけ、生成された回答をもとにさらに質問を投げかけるということを繰り返して疑問点や論点を抽出・解消することにより、当初の考えを具体化し、ブラッシュアップすること。

こうしたAIとの対話のリアリティをより高めようとすると、AIの返答を、口を動かしたり表情を変えたりするアバターを使って表現する仕組みが必要になる。アバターを用いた「AI役員」を初めて活用したのが三井住友フィナンシャルグループ(東証プライム)だ。2025年7月、同社傘下の銀行で中島社長の姿を模した「AI社長」が導入された(導入時のリリースはこちら)。モニターに表示された中島社長のアバターに対して従業員が質問すると、中島社長の過去の発言、その背景にある考え方、周囲からの印象等のデータを参照しながら、「中島社長であればこう答えるはず」という回答が生成される。従業員にとっては“雲の上の存在”の社長が、AI社長というアバターを通じ、身近に向き合える存在となる。


周囲からの印象 : ここでいう「周囲」とは中島社長と実際に接してきた社員、役員、関係者などを指す。「印象」とは、彼らが中島社長に対して抱いている人物像・性格・価値観・判断傾向などについての認識のことである。

また、三谷産業(東証スタンダード)が導入したのが「AI社外取締役」だ(三谷産業の導入時のリリースはこちら。「AI社外取締役」は株式会社上場ドットコムの登録商標となっている)。2026年6月に新たに設ける予定の「AI社外取締役」(あくまで助言・提言機能に特化した役割に位置づけるとともに、非自然人であるため、法的要件を満たす取締役としては扱わない)候補者として、バーチャルヒューマンの北斗泰山氏を選任する予定。北斗氏には東洋思想の知見を有する「孫子の兵法」の考え方があらかじめインプットされている。今後は他の諸子百家、古典哲学、倫理観、自然観、禅思想といった東洋的な知恵に加え西洋的な思考様式もインプットされるという。7割強の役員・社員がAIやディープラーニングに関するG検定(ジェネラリスト検定)に合格するなど社内にAIが浸透した同社ならではの先進的な取り組みと言えよう。


諸子百家 : 古代中国の春秋戦国時代(紀元前770年〜紀元前221年)に登場した様々な思想家や学派の総称。社会が大きく揺れ動く中で、政治・倫理・軍事・自然などあらゆる分野において多様な考え方が生まれた。
G検定 : 一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施する、AI・ディープラーニングの活⽤リテラシー習得のための検定試験の呼称。

三井住友フィナンシャルグループや三谷産業に導入されたAI役員(三谷産業では「AI社外取締役」という呼称を使用している)はそれぞれ1名だが、既に12名ものAI役員を実装済みなのが、・・・

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