高市首相が衆院予算委員会で台湾有事を念頭に置いた答弁を行って以降、中国の反発は収まる気配がなく、依然として両国間の緊張関係は続いている(地政学リスクが高まる中で企業が向き合うべき課題については、2025年11月19日のニュース「台湾有事に備え企業が講じるべき対応」参照)。こうした情勢下、経済産業省は11月26日、「経済安全保障経営ガイドライン(第1版)」(以下、本ガイドライン案)の公開草案を公表している。
本ガイドライン案は、タイトルに「経営」という文字が含まれているとおり、企業経営における経済安全保障対応を体系的に整理したものであり、対象者は「経営者等」とされている。実務担当者向けのガイドライン(*)は既に存在しているが、経営者向けは初となる。
本ガイドライン案は、「経営者等が認識すべき原則」と「個別領域における取組の方向性」の二本柱で構成されている(本ガイドライン案2ページ参照)。前者は総論、後者は各論という位置付けになる。「経営者向け」と謳っているだけあって、シンプルにまとめられている。
「経営者等が認識すべき原則」には次の3つがある。
(1) 自社ビジネスを正確に把握し、リスクシナリオを策定する
(2) 経済安全保障への対応を単なるコストではなく、投資と捉える
(3) マルチステークホルダーとの対話を欠かさない
「個別領域における取組の方向性」には次の3つがある。
(1)自律性確保の取組
(2)不可欠性確保の取組
(3)経済安全保障対応におけるガバナンス強化
不可欠性確保 : 自社がサプライチェーンや市場にとって代替困難な存在=不可欠なプレイヤーであり続けること
各論に相当する「個別領域における取組の方向性」では、不可欠性確保に向け、技術流出リスクの把握と管理体制強化、研究開発投資の戦略的運用、技術者の待遇改善など、人的・組織的基盤の整備まで踏み込んだ具体的かつ実務的な行動が「経営者等が認識すべき推奨事項」として示されている(本ガイドライン案の12ページから14ページ参照)。「推奨」とあるが、実際のところその多くは「必須」と考えてよい。例えば「現在シングルソースに調達を依存している場合は、万が一供給途絶が発現した場合に備えて、例えば、予め代替調達となり得る事業者等との間で自社の製品・サービス等に組み入れるための原材料等の認証を行っておく」といった対応は、自律した経営を実現するうえでは「必須」であろう。
シングルソース : 特定の原材料や部品、サービスなどを 1社のみから調達しており、他の供給先が存在しない、あるいは利用していない状況。供給元のトラブル(災害、経営破綻、品質問題、政治的要因など)が発生すると供給が途絶する可能性が高く、自社の製品やサービスの生産・提供が止まるリスクがある。
また、本ガイドライン案には「チェックリスト」(本ガイドライン案の17ページ以降)が付いている。このチェックリストは、「経営者等が認識すべき原則」と「個別領域における取組の方向性」に沿った内容となっており、企業が自社の経済安全保障への対応状況を漏れなく把握できるよう設計されている。自社の経済安全保障対応を総点検し、自社の課題を“見える化”するために活用したい。
経済安全保障対応にはコストがかかるため、経営者は消極的になりがちだが、以下のようなメリットがあることを認識する必要がある。・・・
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