印刷する 印刷する

「有事」から考える「平時」における取締役会の行動指針

東京国際大学教授
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員
吉村一男

経済産業省が2023年8月に「企業買収における行動指針」を策定して以降、日本企業が関わるM&Aの件数・金額は2年連続で増加し、2025年には6,259件(前年比10.0%増)、金額にして40兆7,900億円(同90.5%増)と、いずれも過去最高を記録している(公正な買収の在り方に関する研究会・第9回 事務局説明資料の4ページ参照)。これに伴い、同指針が参照される場面が増える一方、経済産業省が買収の対象会社、買収者、投資家、ファイナンシャル・アドバイザー、リーガル・アドバイザーなど企業買収に関与した関係者へのヒアリングを実施したところ、指針に対する不十分な理解や、立場の異なる関係者の間に認識の乖離がある可能性を裏付ける声が確認された。

これを受け経済産業省は、「公正な買収の在り方に関する研究会」(座長:神田秀樹東京大学名誉教授)を2026年2月に再開し、ヒアリング結果や委員による議論を踏まえて、指針の原則論やベストプラクティスの要点を整理した『「企業買収における行動指針」のポイント』と、実務上判断の難しい論点について考慮すべき事項や基本的な考え方を設例形式で示した『「企業買収における行動指針」Q&A』を同年7月30日に公表した。これらは指針そのものを変更するものではなく、その趣旨が正しく理解され、企業や株主の利益に資する形で実務に活かされることを目的としている。

2023年の指針策定後、企業買収の実務では・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。