- 通常の取締役会を開催せずに高額な固定資産を取得する方法
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このように高額な固定資産の購入(「重要な財産」の譲受け)は取締役会の決議を経て行うのが原則ですが、取締役の人数が多い会社になると、高額な固定資産を購入するたびに取締役会を開催するのは大きな負担になりかねません。そのような場合に利用を検討したいのが、特別取締役制度です。
特別取締役とは、取締役会であらかじめ選定した少数の取締役(3名以上)のことです。この特別取締役のみにより構成される取締役会(*)で、取締役に決定を委任できない「重要な財産」の譲受けのほか、重要な財産の処分や多額の借財についても決議できます(下表参照。会社法373条1項)。特別取締役制度は、一部の取締役(=特別取締役)だけによる迅速な意思決定を可能にするための制度と言えます。
* 会社法には「特別取締役会」という用語はありません。
ただし、特別取締役による決議ができるのは、以下の要件を両方とも充たす会社に限定されているので注意が必要です。
(1)取締役の数が6人以上であること
(2)取締役のうち1人以上が社外取締役であること
また、上述のとおり、特別取締役は「3名以上」選定しなければなりません(特別取締役に社外取締役が含まれていなくてもOKです)。原則として、特別取締役のうち過半数が出席し、その出席者のうち過半数が賛成すれば、通常の取締役会の決議を経なくても、「重要な財産」の譲受けなどが可能になります(定足数・決議要件については定款で異なる定めを設けることができるとされています。また、特別取締役自身が固定資産の譲渡人である場合のように決議内容に関して会社と利害が対立することになる特別取締役は議決に参加できません)。特別取締役制度を利用している会社は、その旨と、特別取締役および社外取締役の氏名を登記しなければなりません(会社法911条3項21号)。
<取締役の一存では決定することができない事項と特別取締役制度による決議の可否(会社法362条4項)>
| 取締役の一存では決定することができない事項 |
特別取締役制度による決議の可否 |
| 重要な財産の処分および譲受け |
可 |
| 多額の借財 |
可 |
| 支配人その他の重要な使用人の選任および解任 |
不可 |
| 支店その他の重要な組織の設置、変更および廃止 |
不可 |
| 募集社債の総額その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要事項 |
不可 |
| 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(内部統制システムの構築に関する事項) |
不可 |
| 定款の定めに基づく取締役会による役員等の株式会社に対する責任免除 |
不可 |
いずれにせよ、特別取締役制度を導入する際には、コーポレートガバナンスの観点からも、特別取締役による取締役会の権限を明確にしておかなければなりません。具体的には、取締役会規則、決裁権限規程等の社内規程において、「重要な財産」と「多額の借財」の定義を明確化し、特別取締役による取締役会の権限をはっきりさせておくことが必須となります。
特別取締役による取締役会を開催した後、すぐに議事録を整えなければならない点は、通常の取締役会と同じです。また、やはり通常の取締役会と同様、決議事項に反対する特別取締役がいた場合には、異議を述べた旨を議事録に残す必要があります。
このほか、特別取締役による取締役会で決議が行われた場合、特別取締役の互選により選ばれた者が、決議後遅滞なく、決議内容を特別取締役以外の取締役に報告しなければなりません(会社法373条2項)。報告の仕方については、文書によるべきか、口頭や電子メールでも構わないのか、会社法には特段規定されていません。特別取締役による取締役会の後に遅滞なく、通常の取締役会が開催される場合には、当該取締役会において報告し、取締役会議事録にその旨を記載する方法が考えられます。もっとも、必ずしも、遅滞なく、通常の取締役会が開催されるとは限りません。その場合、報告が行われたことが記録に残るように、文書または電子メールによる報告が望ましいです。特別取締役による取締役会の議事録のコピーを各取締役に送付または送信する方法が簡便でしょう。
互選 : 関係者(ここでは特別取締役)の中だけで選挙を行い、ある役に就任する者を選ぶこと
では、監査役の役割はどのようなものでしょうか。特別取締役による取締役会には監査役全員が出席するのが原則です。ただし、監査役の互選によって、監査役の中から特別取締役による取締役会に出席する者を定めることもできます(会社法383条1項ただし書き)。特別取締役制度が「迅速な意思決定」を狙いとしている点を考えると、特別取締役による取締役会に出席する監査役を「常勤監査役」に限定しておくのも一つの手です。もっとも、特別取締役による取締役会に出席する監査役を定めた場合でも、その取締役会の招集通知は各監査役に対して発しなければならない点については留意が必要です(会社法368条1項)。
- 固定資産取得の承認時に判断すべき要素は金額だけではない
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上述したように、取得する固定資産が「重要な財産の譲受け」に該当すれば、取得に際して事前に通常の取締役会または特別取締役による取締役会の決議を経なければなりません。取締役会では、購入の原資、すなわち自己資金によるのか、あるいは銀行等から借り入れるのか、場合によっては社債を発行したり、新株を発行したりするのか、といった資金調達手法についても、あわせて議論をしておく必要があります。
一方、会社法上は取締役会の決議を求められないような少額の固定資産の取得であったとしても、会社の資金から購入する以上、個人的な転売等の不正を防ぐために、その取得に際しては「内部統制」が十分に機能していることが大前提となります。
具体的には、まず、取得する固定資産の金額的重要性・質的重要性に見合った決裁者・機関(通常は、金額が大きくなるにつれ、また、質的重要性が高いものほど承認権限者が高位となり、個人から経営会議や常務会、取締役会等の会議体に移っていきます)を決裁権限規程で定めます。固定資産の取得の意思決定においては、起案部署(経営企画や工場、店舗開発等)が物件の選別および購入の申請を行い、これを受け、決裁者・機関が申請内容を評価し、承認の可否を決定することになります。
承認の可否の判断は、社内の「承認ルール」に沿って行われる必要があります。承認のルールが定められていないと、合理性のない固定資産の取得が承認されてしまう恐れがあるからです。例えば、申請部門が取引先からの要請に応じて、市場価格よりも割高な価格での購入を申請し、それが承認されてしまうような場合です。
承認に際しては、「取得目的・理由」、「取得内容(購入先、性能、納期、価格、保証条件等)」、「支払条件」、「予算の有無」等の項目を総合的に判断して決定します。従ってこういった項目が漏れなく購入申請に記載されるように、これらの項目があらかじめ記載された固定資産取得専用の稟議書の使用を義務付ける事も有用です。
上記の項目の中で購入代価は非常に重要な判断要素と言えます。なぜなら、上述のように固定資産の価格は多額となるのが通常のため、相場よりも割高に購入してしまうリスクや取得申請者が特定業者と癒着することでバックマージンを得るために割高な価格で購入してしまうといったリスクがあるからです。このようなリスクに対応するためにも、原則として2社以上より見積書をとる事をルール化する事も有用です。
その際、金額的重要性の高い固定資産の取得であれば、投資の経済性計算を事前に行っておき、その計算結果を投資の承認の際の判断材料の一つに位置付ける必要があります。例えば生産設備の購入を想定すると、その設備から産出される製品を販売することによってどれほどの利益が得られるか、投資額は何年で回収されるのか、収益率はいかほどか(資本コストを上回っているのか)といった投資の経済性計算に基づく設備投資計画を策定し、それを稟議書等に添付することで、決裁者が投資の可否の判断材料の一つとして活用することが可能になります。
- 中期事業計画と予算を踏まえた取得を
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上場会社では中期事業計画(2~3年程度)が定められ、それに基づき各年度の事業計画が策定されるのが通常です。固定資産取得の効果は長期間に及ぶため、固定資産の取得は、中(長)期事業計画と整合していなければなりません。例えば、中期事業計画にてある製品が強化・成長分野の製品として位置付けられており、現存の設備では販売計画・生産計画を実現するだけの生産能力がない場合に実施する生産能力向上のための設備投資は、中期事業計画と整合する設備投資と言えます。
設備投資はコスト負担を伴うものである以上、投資額は予算内に収まっていなければなりません。固定資産の購入のための予算は「設備予算」と言われます。設備予算には毎年策定されるものと、中期事業計画に合わせ2~3年の期間を単位に作成されるものがあります。固定資産に限ったことではありませんが、予算は損益のみならず、キャッシュ・フローの観点からも検討されるべきです。特に固定資産の取得では、一時に多額の現金が流出するため、なおさらです。資金予算もあわせて検討し、固定資産の取得により資金繰りが困難とならないか、借入れをすべきか否か、借入金の調達は果たして可能なのかどうか、借入金の返済原資は毎期の利益と非現金支出費用の合計見込みの範囲内に十分に収まるのか(悲観的な予想利益の元ではどうか)といった点を検討することになります。
なお、設備取得の申請者は、固定資産の購入代価・付随費用(運搬費用、据付費用)だけでなく、維持・管理費用および撤去費用も含めた“ライフサイクルコスト”を考慮することも必要です。また、一口に固定資産の取得と言っても、自己資金での取得か借入金での取得かにより、負担する資本コストが税引前か税引後かといった違いが生じます(借入金の利息は営業外費用ですが、株主への配当は税引後利益をベースとした利益剰余金から行われます)。また、購入かリースかによって、利息負担や事務管理コスト、所有権の有無が異なってきます。そのため、設備取得の申請者は調達手段ごとに費用を検討することになります(この点については後述します)。
- 固定資産投資の効果を計る3つの計算方法
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設備取得の申請に際しては、費用面のみならず、固定資産が生み出す収益、すなわち「投資効果」の面からの検討も不可欠になります。固定資産の投資効果は、一般的に以下の3つの方法のいずれか(またはその組み合わせ)で判定されます(投資の意思決定に関する採算性計算方法については「店舗を新規出店したい」の「投資コストを把握し採算性を計算」も参照してください)。
(正味現在価値法)
正味現在価値法とは、投資したことによって得られる年々の現金流入額(現金流出額を控除後)を資本コストで割り引き、その合計額から投資額の現在価値合計を控除して正味現在価値を算定するものです。正味現在価値の大きさが評価基準となります。下図の「増分」とは、その投資によって増えた分という意味です(以下、同様)。

(内部利益率法)
内部利益率法とは、投資をしたことによって得られる年々の現金流入額(現金流出額を控除後)の現在価値合計が、投資額の現在価値合計と等しくなる利益率(割引)を算定し、その利益率の高さを評価するものです。

(回収期間法)
回収期間法とは、当初の投資額を年々の現金流入額(現金流出額を控除後)で回収するのに要する期間を算定し、その回収期間の短さを評価するものです。年々の現金流入額の計算にあたっては、現在価値を考慮する方法としない方法があります。下図は現在価値を考慮しない方法です(現在価値を考慮する場合には、年々の増分現金流入額を現在価値に割り引いて、計算します)。
- 購入原資は自己資本か、それとも借入金か?
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固定資産の購入の際にファイナンスを行う場合には、自己資本(増資)か借入金(他人資本)によることになります。借入金の場合は利息が発生する一方、自己資本であれば利息は発生しません。また、借入金は返済期限がありますが、資本金は法的には返済する必要がありません。そのため、自己資本の方はコストがかからなくて済むようにも見えますが、それは間違いです。自己資本に対しても配当金(インカムゲイン)や株価上昇期待(キャピタルゲイン)という「資本コスト」が発生しているからです。
資本コストとは、資金調達に伴って発生するコストのことを言います。借入れによって資金を調達すれば「利子」という資本コストが発生し、株主から資金を調達すれば、上述したように株主への配当金(インカムゲイン)や株主が有する株価上昇期待(キャピタルゲイン)という資本コストが発生します。したがって、企業の資本コストは「借入金」と「株式市場からの調達額」の割合で決まることになります。我が国では「無借金経営」が理想的な経営のように言われることが少なくありません。しかし、実は、税引後に配当の支払いや株価上昇期待に応えなければならない株式市場からの資金調達の方が、利息(税金計算上損金になります)を支払えば済む借入金よりも資本コストが高いことが実証研究により分かっています。そのため、調達額に占める借入金の割合が小さければ小さいほど(株式市場からの調達が多ければ多いほど)資本コストは高くなります。会社は、資本コストをまかなうために資本コストを上回る利益を出さなければなりません。資本コストが高ければ高いほど、それだけ多くの利益を上げる必要があります。
もっとも、自己資本の資本コストは測定が容易ではなく、長期的にはともかく短期的には意識しづらいものであり、一方で借入金の金利は可視的で市中の資金需要の高低や金融政策の動向に影響し変動するものです。リストラ時には配当を支払わないこともできますが、金利を支払わないと社債や借入金のデフォルトとなり、追加借り入れができず資金がショートしてしまう可能性があります。そのため、過度に借入金の割合を高めるわけにはいきません。
そこで、通常は「他人資本(借入金)」と「自己資本」のバランスを考慮して資金調達します。したがって、固定資産の取得にあたり、借入金と自己資本のどちらを選択するかは、その時点における会社の資金調達状況(借入れ過多になっているのか、あるいは自己資本が過多なのか)に応じて判断するのがセオリーです。
また、資本コストは、固定資産への投資(取得)の可否を判断する際にも利用できます。すなわち、「投資の経済性計算から導き出された固定資産への投資から得られる収益率」が資本コストを超えている(ハードル・レート)ことが投資の前提となり、収益率が資本コストを超過する幅が大きいほど、投資に前向きな判断になります。上場会社では社内の分業が進んでおり、資金調達活動を財務部のような専門部署が一手に担っているのが一般的ですが、この場合、その弊害として、投資判断を行う部署(例えば経営企画、工場、店舗開発等)における資金調達コスト(資本コスト)への意識が希薄となっている場合が少なくありません。よって、客観的な指標である資本コストを投資判断に用いることは、投資判断を行う部署だけの事情ではなく、「全社的に」適切な投資判断を行う上で有用です。
- 購入かリースかは一概に判断できず
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固定資産の新規導入を検討する際には、リースという手法も検討してみる価値があります。リースでは、購入した場合と比べるとトータルでの支払い総額は高くなりますが、一時の資金流出が抑えられるというメリットに加え、節税効果もあるからです。
リースのメリットは以下のとおりです。
・一時の資金流出が低く抑えられる
固定資産の取得を自己資金または借入れによって行うとなると、一時に多額の資金が必要となります。一方、リースを利用すると、初期費用としてかかるのは、リース料1回ないし3回分程度の「前払リース料」だけです。また、リースは借入れの一種ですが、担保も不要です。
・節税メリット
リース期間を通じた支払リース料の総額は、自己資金で固定資産を取得した場合の取得価額よりも高額になります。しかし、リース期間は法定耐用年数(法人税法に定めれられた耐用年数)よりも短く設定されるのが通常ですから、早めに費用(リース料)計上が行われる分、節税効果が生じます。そのため、資本コストを考慮せずに、リース期間に限り資金流出額に節税効果も加味して比較すると、“自己資金で資産を購入した場合”よりも資金流出額を抑えることができるのが一般的です。一方、法定耐用年数の期間で比較すると、“自己資金で資産を購入した場合”の方が資金流出額を抑えることができます。資本コストを考慮したうえで比較すると、当初に多額の資金流出が必要となる“自己資金で資産を購入した場合”の方が、資本コストが高いほど不利な結果になる傾向にあります。なお、“借入金により資産を購入した場合”と比較すると、借手の担保価値、収益力などの資金調達能力の如何や、市場金利の動向に左右されるため、どちらが有利とは一概に決まりません。
・事務負担の軽減
リースでは月々のリース料を支払うのみで、減価償却費の計算や固定資産税の計算・納付が必要なく、事務負担が軽減されるというメリットがあります。なお、固定資産税の納付はないものの(固定資産税はリース会社に課せられます)、固定資産税相当額はリース料に反映されているはずなので、実質的にはリース資産の借り手が負担しているとも言えます。
・陳腐化の回避
ファイナンス・リース契約(実質的に購入したのと同じリース契約)では中途解約を認めていません(仮に認める場合、購入したのと同程度の追加支払を求められることになります)が、リース期間を短縮することは可能なので、資産が陳腐化する前にリース期間が終わるようリース期間を短縮すれば、陳腐化を回避することができます。ただしこの場合、月々の支払リース料は当然ながら増えることになります。
・金利水準に左右されず、キャッシュ・フローを固定できる
借入れによる購入の場合には、借入金の利率によって支払額が変動しますが、リースの場合、いったん契約した物件について金利動向によりリース料が変動することはありませんので(金利水準の変動リスクはリース会社が負うことになります)、リース期間中のキャッシュ・フローは固定されます。もっとも、リース会社は金利水準の変動リスクを織り込んだ高めの金利水準でリース料を設定するため、そのリスクの大半は借り手に転嫁されていると言えます。
一方、リースにはデメリットも存在します。具体的には次のとおりです。
・中途解約ができない
通常のファイナンス・リースであれば、実質的に中途解約ができない仕組みになっています。ただし、上述のとおり、リース期間を短縮することによって陳腐化を回避することは可能です。
・リース料が割高
リース料には、物件の購入代金のほかに付随費用(管理費用)、リース会社の利益が含まれていますので、リース料の総額は、購入した場合より割高となります。
・物件の所有権を取得できない
リース物件の所有権はリース会社が有しています。基幹資産については自社所有したいというニーズを有する会社もありますが、リースを用いる限り、借り手は所有することができません。
このように、リースにはメリットとデメリットがありますので、会社の状況や、金利情勢等を総合的に判断して利用の是非を決定する必要があります。たとえば、繰越欠損金を抱えている企業は上記の節税効果を得られない点で購入の方が有利と言えます。所有する固定資産の数が多く、その管理コスト(例えば償却資産税の申告の手間や故障時の取り換え等)に悩んでいる会社の場合は、リースの方が有利と言えます。
- 補助金や減税などの優遇制度の見落としに要注意
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固定資産を取得した企業は、国や地方公共団体による取得資金の補助や減税といった優遇制度を利用できる場合が少なくありません。仮にこれらの優遇制度を見落としてしまうと、本来は内部留保ができたはずのキャッシュが流出してしまうことになり、担当役員(補助金については総務担当役員、減税については経理担当役員が一般的)の責任問題にもつながりかねません。
以下、優遇制度ごとに見ていきましょう。
・補助金
補助金には、身近なところでエコカー補助金(制度終了済)があります。また、太陽光発電や風力発電といった新エネルギー関連設備の取得のための補助金も注目を集めています。補助金の種類は多岐に渡るため、業界誌や各省庁のサイト等で情報収集を続け、見落としの無いようにする必要があります。
こうした補助金は会計上「利益」であり、本来は法人税も課税されてしまうところですが、国等からの補助金に税金をかけてしまうと、実質的に補助金の一部が税金として国等に返還されてしまうという矛盾が生じます。この矛盾の解消のため、法人税法には「圧縮記帳制度」という制度が設けられています(次で詳しく説明します)。
・圧縮記帳
圧縮記帳にはいくつかの種類があります。まず補助金に関する圧縮記帳を例に説明します。補助金を受け取ると、受け取った額を営業外収益や特別利益に計上する一方で、取得した固定資産の取得原価から補助金と同額を減額(取得原価を“圧縮”するため圧縮記帳と言われます)し、当該減額分を「損失」として計上することが法人税法において認められています。この結果、利益と損失が相殺され、補助金を受け取った事業年度においては、補助金に対する課税が行なわれないことになるわけです。ただし、損失計上により固定資産の取得価額が減額されることに伴い、各事業年度の減価償却費は減少しますので、その分、法人税の負担は増えます。つまり、圧縮記帳制度は、法人税を“非課税”にするわけではなく、本来は補助金を受け取った事業年度に課されるはずだった法人税を、固定資産の耐用年数期間にわたって少しずつ課税(これを「課税の繰延べ」と言います)しているに過ぎないということです。もっとも、固定資産の取得価額を直接減額する方式(直接減額方式)では、固定資産の評価という観点から問題がある(固定資産の簿価が著しく少なくなってしまう)ため、上場会社の場合、固定資産の取得価額を直接減額せずに、積立金を用いた会計処理(積立金方式)を用いるケースが良く見受けられます。
圧縮記帳は、補助金の受取時以外にも適用できるケースがあります。具体的には、保険金で固定資産を購入した場合や、「特定資産」を買い換えた場合などです。前者は、被災に伴い受け取った保険金により固定資産を購入する場合に、当該保険金受取額に税金をかけてしまうと、税額分だけ取得できる固定資産が少なくなってしまい、被災からの回復を妨げることになりかねないため法人税法において認められた圧縮記帳です。一方、後者は、事業用資産の買換え促進や、誘致区域等への移転を促進するという趣旨で租税特別措置法において認められた圧縮記帳です。
このうち、土地、建物、機械装置といった会社経営上の重要資産を購入する際に活用できることが多いのが、後者の「特定資産」を買い換えた場合の圧縮記帳です。例えば、企業等の資産の買替え時の負担を軽減することで、土地取引の活性化や土地の有効利用を促進するとともに設備更新・事業再編の円滑化を図るため、長期保有(10年超)の土地等を譲渡し、新たに事業用資産(買換資産)を取得した場合において、譲渡した事業用資産の譲渡益について課税の繰延べ(繰延率80%)を認めています。高額な固定資産を購入する場合には、手持ちの資産を売却し、その資金を元手に新たな固定資産を取得するケースも少なくないと思いますので、それが「特定資産の買換え」に関する圧縮記帳制度の適用要件を充たすか否か、その適用期限を含めて必ず確認しておくべきです。
・特別償却・税額控除制度
特別償却・税額控除制度とは、企業の設備投資(機械装置等の購入)を促したり、省エネや環境保護に資する設備の購入を促すといった政策目的から、購入金額の一定割合を損金に算入したり(特別償却)、法人税からの控除(税額控除)を認めるものです(会社は、特別償却と税額控除のうち、より税金が少なくなる方を選択することになります)。
主な制度としては、研究開発税制、グリーン投資減税(環境関連投資促進税制)、エネルギー需給構造改革推進税制などがあります(特別償却、税額控除制度の一覧はこちら)。特別償却と税額控除のどちらを選択するのか、適用要件を満たしているかどうかなどは顧問税理士を交え経理部門(税務部門)が検討することになりますが、役員としては、適用漏れがないかどうか、また、ある固定資産が複数の特別償却・税額控除制度の適用要件を充たす場合、もっとも税金が安くなる制度はどの制度なのか(*)を確認する必要があります。
* 特別償却は課税の繰延であるのに対し、税額控除は純粋な税金の減額であり、その性質は異なります。
なお、特別償却の会計処理の1つである固定資産の取得価額を直接減額する方式(直接減額方式)は、固定資産の簿価が著しく少なくなってしまうため、固定資産の評価という観点から問題があります。そこで、上場会社の場合、固定資産の取得価額を直接減額せずに、積立金を用いた会計処理(積立金方式)を用いるケースが良く見受けられます。
・その他
上記の他にも、各自治体が企業誘致目的で設けている、固定資産税の減免等の優遇制度がありますので、それらの制度も有効に活用すべきです。
- 取得後もフォローアップが重要
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固定資産の取得後は、固定資産管理台帳(通常は固定資産管理システムの一機能となります)に登録されますが、事業の用に供されたこと(稼働し始めたこと)を管理部門が確認できるまでは減価償却することはできません。減価償却は固定資産管理システムにより会計方針に基づき規則的に自動計算・計上されますが、そもそも固定資産管理台帳への登録内容が誤っていれば減価償却費が誤って計算されてしまいます(例えば耐用年数が10年のところ、誤って20年として登録されてしまうと、各年度の減価償却費の計上が過少になってしまいます)。そこで総務担当の取締役としては、固定資産管理台帳への登録内容の確認のための内部統制(入力内容を入力者以外の者がチェックする等)や取得した固定資産が事業の用に供されていることの確認のための内部統制(固定資産稼働報告書を固定資産設置場所の部門長が承認し、管理部門に回付する等)を整備・運用しておく必要があります。
なお、中古建物を取得した場合は、売り手の簿価を入手する等して取得価額を建物と各附属設備に按分しておかなければ、適切な減価償却ができなくなるとともに除却時の除却損益を適切に算定できなくなってしまう点に注意が必要です。また、付随費用の扱いにも留意しなければなりません。雪国まいたけ社の事例では費用化すべき別の土地の関連支出が土地の取得原価に混入していたため、過年度の有価証券報告書等の訂正が必要となりました(雪国まいたけ社の事例はこちら)。
固定資産管理台帳上の固定資産番号を記載したプレートを固定資産に貼付し、現物管理を行います。機械を外注先に貸し出ししている場合、外注先の倒産等の事態に備えて会社名が記載されたプレートを貼付しておく必要があります。
固定資産は定期的(たとえば部門や事業所ごとに巡回する方式で数年に一度)に棚卸を行い、実物が現存していることを確認します。外注先の場合、預り証を発行してもらったり、棚卸担当者(*)が訪問して現物を確認したりといった手続を踏む必要があります。
* 貸出担当者以外の者が現物を確認します。
それに備えて、固定資産の移動があれば、固定資産台帳上で管理している「固定資産の所在場所」を更新しておきます。また、固定資産の除却の際に、固定資産管理台帳に除却の事実を反映することを失念しないよう除却プロセスに組み込んでおきます。
また、取得した固定資産が予定通りの投資効果を獲得できているかどうかについても、フォローしなければなりません。具体的には当初の予算と実績の比較管理、すなわち予算実績管理を行っていく必要があります。
これにより、固定資産取得に投下した資本が回収されないリスクを早期に把握することができ、予算が未達成となっている場合には、生産部門と販売部門の会議等において、その原因、今後の生産計画の実現可能性について協議し、例えば営業のテコ入れによる売上高のアップ、他の製品を製造すること(転用)の可否等について検討する事になります。これらの検討の結果、固定資産を維持し続けることの有益性に疑義が生じた場合には、資産の廃棄、取替え等を検討することになります。生産計画の大幅な見直しが必要になったり、資産の廃棄により多額の損失が発生したりするなど重要な経営判断が必要になる場合には、取締役会に意思決定を仰ぐことになります。
固定資産に関する予算実績差異分析の業務フローをまとめると、下記のとおりです。金額的重要性の高い生産設備等については、このような分析が有用と言えます。

また、固定資産の価値を維持するためには定期的な修繕が欠かせません。この修繕のための支出には、固定資産の取得原価に含めるもの(資本的支出)と、修繕費として費用処理するもの(収益的支出)があります。資本的支出とは、当該支出により固定資産の耐用年数が延長される場合や、固定資産の価値が増加する場合の支出であり、いったん固定資産に計上します(減価償却を通じて費用化されます)。また、現状維持のための支出は収益的支出として費用処理されます。その判断は実務上、経理規程や経理マニュアルに明示される等してルール化されているのが通常といえ、それらのルールは税法の判断基準を参考に規定化されているのが一般的です。資本的支出と収益的支出の区別が微妙なものについては、利益や損失の調整に用いられるおそれが大と言えます。役員は、自社のルールが適切に運用されていることを確認する必要があります。
- 業績への影響が大きい減損処理
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固定資産の中でも、建物や機械装置、器具備品、ソフトウェア、特許権などの「償却対象資産」を取得した場合には、その耐用年数や償却期間の間、(減価)償却費が費用として計上されることになり、長期的に会社の業績に影響を与えることになります。
もっとも、固定資産の取得にあたり考慮しなければならないのは(減価)償却費だけではありません。
まず、固定資産の状況によっては計上を求められるのが「資産除去債務」です。固定資産によっては、将来それが耐用年数を終えた場合に、法令や契約によって撤去・除去が義務付けられているものがあります。例えば、定期借地契約で賃借した土地の上に建設した建物等を除去する義務や、有害物質を特別の方法で除去する義務として、アスベストやPCBの除去の義務が挙げられます。企業会計では、このように撤去・除去が法令や契約で要求されている場合には、将来必要になる撤去・除去費用を見積もって、これを固定資産の取得時に「資産除去債務」として計上し、資産の取得原価とともに耐用年数にわたって費用に計上していくことが義務付けられています(資産除去債務については、「新規出店したい」の「新規出店が「資産除去債務」を生むことも」を参照してください)。かつては、資産の処分時に一括で費用計上すれば十分であった資産除去債務ですが、「平成22年4月1日以降開始の事業年度」からは、あくまで「資産の取得時」に計上しなければいけなくなったので注意が必要です。
なお、資産除去債務の計上が必要になるのは建物や機械装置、器具備品などの「有形固定資産」であり、有形固定資産であっても法令や契約で撤去・除去が求められていない場合や、そもそも撤去や除去を想定できない特許権や水道施設利用権などの無形固定資産については、資産除去債務を計上する必要はありません。
また、固定資産の価格や収益性が著しく低下している場合には、固定資産の簿価を時価まで減額する減損処理を行わなければなりません。減損処理は、「減価償却資産」のみならず有価証券のような「非減価償却資産」に対しても必要になります。それらの減損処理額は多額になるのが通常であり、業績に大きな影響を与えることになります。
- 固定資産取得で「業績予想の修正」の要否を検討
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固定資産を取得した場合、事業報告の設備投資の状況で開示することになります(通常は当期中の設備投資総額と主なものの具体的内容を記載)。また、附属明細書の「有形固定資産及び無形固定資産の明細」で重要な増減を記載(*)することになります。
* 重要性についての金額的基準は、特にありません。上位数件を記載する企業が大半です。
また、有価証券報告書提出会社の場合、有価証券報告書の【設備投資等の概要】や【設備の新設、除却等の計画】で開示するとともに、附属明細表の【有形固定資産明細表】において重要なもの(*)について欄外で注記を行います。
* 同一の種類のものについて資産の総額の1%を超える額の増加について注記します。
固定資産の取得により連結会社の資産の額が直前連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上増加する見込みがあれば、取得した固定資産の内容を適時開示する必要があります。
固定資産の取得や減損・被災により、業績予想の着地見込みを更新しなければならない場合もあります。なぜなら、業績予想を開示している場合、前回予想値と今回予想値又は当期実績値とを比較して、売上高が10%以上、また営業利益・経常利益・当期純利益が30%以上増減する場合は、業績予想の修正を開示しなければならず、固定資産の取得によりそういった影響が生じる場合もあるからです(業績予想の修正の詳細は「業績予想を修正したい」を参照してください)。