2014/07/15 米国ガバナンス事情 有名企業でも珍しくない取締役会による経営トップ更迭

 先月6月20日、会社法改正案が成立し、社外取締役1名の選任が実質義務化されたが(施行は平成27年4月1日の見込み)、日本のコーポレートガバナンス改革はようやく端緒についたに過ぎないと言える。グローバルでは、社外取締役が取締役会の大部分を占めるのが通常となっているからだ。

 例えば米国では、約9割の企業で社外取締役が取締役会の過半数を占めており、社外取締役が取締役会に占める割合を平均すると7割を超える(ISS:Institutional Shareholder Services調べ)。このようなメンバー構成の取締役会では、経営トップの経営責任を厳しくチェックすることのは当然となっている。米国の最新事例を紹介しよう。

 全世界で数百店舗を展開する米国の有名アパレルメーカーは2014年6月18日、取締役会が創業者兼CEOの解任を決めたと発表した。決定を不服とするCEOは株主総会の招集を試みるとともに、大株主であるヘッジファンドと組んでTOBを進めるなど、巻き返しを図っている。対する取締役会も、敵対的買収防衛策である「ポイズンピル*」の導入を決めるなど、事態は泥沼化している。

* 毒薬条項とも言われる。敵対的買収がされた場合、既存株主に時価より安く新株を発行して買収費用をかさ上げし、買収されることを抑止する手法。

 同社は解任の理由を「調査中の不正行為」とし、具体的には明示していない。創業者兼CEOは物議をかもすような発言や行動で知られ、同社のいう「不正行為」にはセクシュアルハラスメントや会社資産の不正利用が含まれるとみられる。さらに同社は2010年から経営が悪化、株価も低迷している。現在、同社は2.5億ドルを超える純損失を抱え、この春先にも倒産の危機を回避するために保有株式の売却を検討しているとして話題になった。

 今回の解任決定の発効には、CEOと同社間の契約に基づき30日間の“ホールド期間”が必要で、発効日は7月18日となる。同氏はこのホールド期間を利用して巻き返しを図っており、最初の1週間で、同氏に協力する大株主のヘッジファンドが17%の株式を買い増した結果、CEOの持分と合わせた持株比率は44%まで上がっている。2週間目には、同じファンドがさらに10%の株式を取得するとともに、ファンドが保有する株式を同氏に取得させるため同氏に貸付金を付与する計画が、証券取引所に提出された書類からも明らかになった。この計画が実現すれば、同氏の持株は同社の過半数に達し経営権を得ることから、「解任決定」を覆せることになる。

 一方、同社取締役会は、上記書類提出の2日前にポイズンピルを導入し、同氏の持株比率が過半数に到達しないよう、敵対的買収の防衛を図っている。

 このほか、CEOは解任決定後、自らを支持する取締役を会社に送り込むため株主総会の招集を試みたものの、・・・

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2014/07/15 米国ガバナンス事情 有名企業でも珍しくない取締役会による経営トップ更迭(会員限定)

 先月6月20日、会社法改正案が成立し、社外取締役1名の選任が実質義務化されたが(施行は平成27年4月1日の見込み)、日本のコーポレートガバナンス改革はようやく端緒についたに過ぎないと言える。グローバルでは、社外取締役が取締役会の大部分を占めるのが通常となっているからだ。

 例えば米国では、約9割の企業で社外取締役が取締役会の過半数を占めており、社外取締役が取締役会に占める割合を平均すると7割を超える(ISS:Institutional Shareholder Services調べ)。このようなメンバー構成の取締役会では、経営トップの経営責任を厳しくチェックすることのは当然となっている。米国の最新事例を紹介しよう。

 全世界で数百店舗を展開する米国の有名アパレルメーカーは2014年6月18日、取締役会が創業者兼CEOの解任を決めたと発表した。決定を不服とするCEOは株主総会の招集を試みるとともに、大株主であるヘッジファンドと組んでTOBを進めるなど、巻き返しを図っている。対する取締役会も、敵対的買収防衛策である「ポイズンピル*」の導入を決めるなど、事態は泥沼化している。

* 毒薬条項とも言われる。敵対的買収がされた場合、既存株主に時価より安く新株を発行して買収費用をかさ上げし、買収されることを抑止する手法。

 同社は解任の理由を「調査中の不正行為」とし、具体的には明示していない。創業者兼CEOは物議をかもすような発言や行動で知られ、同社のいう「不正行為」にはセクシュアルハラスメントや会社資産の不正利用が含まれるとみられる。さらに同社は2010年から経営が悪化、株価も低迷している。現在、同社は2.5億ドルを超える純損失を抱え、この春先にも倒産の危機を回避するために保有株式の売却を検討しているとして話題になった。

 今回の解任決定の発効には、CEOと同社間の契約に基づき30日間の“ホールド期間”が必要で、発効日は7月18日となる。同氏はこのホールド期間を利用して巻き返しを図っており、最初の1週間で、同氏に協力する大株主のヘッジファンドが17%の株式を買い増した結果、CEOの持分と合わせた持株比率は44%まで上がっている。2週間目には、同じファンドがさらに10%の株式を取得するとともに、ファンドが保有する株式を同氏に取得させるため同氏に貸付金を付与する計画が、証券取引所に提出された書類からも明らかになった。この計画が実現すれば、同氏の持株は同社の過半数に達し経営権を得ることから、「解任決定」を覆せることになる。

 一方、同社取締役会は、上記書類提出の2日前にポイズンピルを導入し、同氏の持株比率が過半数に到達しないよう、敵対的買収の防衛を図っている。

 このほか、CEOは解任決定後、自らを支持する取締役を会社に送り込むため株主総会の招集を試みたものの、同社取締役会が「同氏にその権限はない」として拒否したことも明らかになっている。まさに泥仕合の様相を呈しており、同氏の解任決定で一時的に上昇していた同社の株価は、再び下落している。

 カリスマ的な創業者CEOの解任決定に至るまでに、同社取締役会は相応の議論をしており、解雇には一定の理由があるものと考えられる。しかし、同社取締役会が、CEOの続投が同社経営に望ましいと考えるヘッジファンドなど「機関投資家」の動きをどこまで把握していたかについては疑問が残る。現在、同社の14%にあたる新株取得予約権を保有し、かつ同社に対する10億ドルの債務返済請求の実行を検討している英国系機関投資家は、同氏に協力するヘッジファンドと今後についての協議に入っている。CEOと取締役会の争いが、ホールド期間終了の7月18日までにどう決着するか注目される。

 米国では、たとえ有名企業であっても、取締役会による最高経営責任者や最高執行責任者の更迭は珍しいことではない。今年5月には、米国流通業界準大手で、取締役会の一部メンバーが「CEOが辞任しなければ、我々が辞任する」とのメッセージを取締役会に発し、CEOが辞任に追い込まれた。このCEOは35年間同社に勤務し、前社長に任命されたという、むしろ日本企業によくある経歴の最高執行責任者である。取締役会がCEOの更迭に動いた理由は、昨年同社が引き起こしたクレジットカード情報の大規模漏えい、カナダ進出による業績悪化などが挙げられる。

 また、マサチューセッツ州の中堅スーパーマーケットチェーンでは、創業者一族である社長と副社長、業務執行役員が、同社取締役会により解任された。株主の利益にならない商品一律値下げを決めたことが理由とされる。昨年には、株主への3億ドルの増配を求める取締役会の決定に対して社長が裁判を起こしたが認められなかった。なお、このケースでは、社長を支持する従業員による抗議活動も起きている。

 このような厳しい米国企業におけるガバナンスのあり方には、マネーゲームに翻弄され長期的な経営判断ができないなどの危惧や批判もあるかもしれない。しかし、業績悪化や経営の失敗に対するCEOの責任を、社外取締役が大多数を占める取締役会が厳しく問うという点では、今後、日本企業が学ぶべきところも多い。コーポレートガバナンスがもたらす経営の監督機能がどうあるべきか、米国事例も参考にしつつ、我が国においても大いに議論されるべきだろう。

2014/07/14 従業員等の横領で「会社ぐるみ」と言われないために

 「〇〇社の経理部社員が〇億円を横領」「××会社の役員が下請け会社に架空発注を繰り返して〇千万円を横領」――従業員や役員(以下、従業員等)による横領事件はしばしばメディアをにぎわせる。

 その場合、会社は様々な対応が求められることになるが(詳細はケース・スタディ「従業員が会社の金を着服していた」参照)、会社のレピュテーションの毀損、キャッシュ流出という点で一番のリスクと言えるのは・・・

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2014/07/14 従業員等の横領で「会社ぐるみ」と言われないために(会員限定)

 「〇〇社の経理部社員が〇億円を横領」「××会社の役員が下請け会社に架空発注を繰り返して〇千万円を横領」――従業員や役員(以下、従業員等)による横領事件はしばしばメディアをにぎわせる。

 その場合、会社は様々な対応が求められることになるが(詳細はケース・スタディ「従業員が会社の金を着服していた」参照)、会社のレピュテーションの毀損、キャッシュ流出という点で一番のリスクと言えるのは従業員等の横領が、「会社の行為」とみなされてしまった場合だ。通常、(特に上場会社においては)従業員等の横領行為に会社が関与することは考えにくいが(その意味では会社も“被害者”と言える)、実は税務の世界では、むしろ「会社の行為」と認定されることの方が多い。架空発注などの「仮装・隠ぺい」行為に対しては、税務上、重加算税というペナルティ的な重い税額を課せられることになる。いくら会社が「これは従業員等による横領であり、会社は被害者」という認識でも、重加算税を課されれば、マスコミでは「会社ぐるみ」などと報じられることもある。

 そこで、税務当局がどのような場合に「会社の行為」と認定しているのかが気になるところだが、まず、「代表権を有する者」が行った横領は必ず「会社の行為」とされる。

 一方、代表権を持たない者による横領では、(1)横領を行った者が重要な業務を担当していた、(2)横領を行った者に業務が任せきりにされていた、(3)管理監督者責任の不履行があった(=会社が通常の注意をすれば容易に発見できたのに、それをしなかった)――という3つの条件がそろった場合に、「会社の行為」と認定されることになる。これは、過去の判例でそのような判断が示されていることを根拠にしている(東京高裁平成21年2月18日判決など)。

 逆に言うと、「会社が通常の注意を払っても容易に発見できなかった」横領であれば、「会社」ではなく、あくまで「横領を行った者」の行為とされる可能性が高い。要するに、会社としては、税務当局に「管理監督責任の不履行」を指摘されにくいしっかりとした内部統制を構築しておくことが、重加算税や「会社ぐるみ」との批判を避けるためには重要ということになる。

 「当社は内部統制監査を受けている上場会社だから大丈夫だろう」といった認識は甘いと言わざるを得ない。従業員等の横領で重加算税を受けメディアに報道されるのは、上場会社がほとんどだからだ。経理担当役員等は、横領行為を防ぐ内部統制が自社で構築されているかどうか、再度チェックしておくべきだろう。

2014/07/11 取締役会運営のガイドラインとベスト・プラクティスが公表(会員限定)

 コーポレートガバナンスの中核を担う取締役会だが、その運営スタイルは企業によってかなり異なるのが実情だろう。

 こうした中、2012年3月から社外役員を含む非業務執行役員に期待される役割などについて検討してきた経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会(以下、経産省研究会)はこのほど、取締役会運営のベストプラクティスをまとめた「社外役員等に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)をとりまとめた。ガイドラインのタイトルが「取締役」でなく「役員」となっているのは、日本特有の制度である「監査役」にも焦点を当てているため。

 ガイドラインの作成にあたっては、経産省研究会の事務局が、社外役員を含む非業務執行役員および企業側における取締役会の担当者などに対してヒアリングを実施、多様な事例(=ベスト・プラクティス。「社外役員を含む非業務執行役員の役割・サポート体制等に関する中間取りまとめ」13ページ~参照)を得ている。これらの事例を踏まえて、「良質なコーポレート・ガバナンスを確保するために求められる、または望まれる事項」としてまとめたのが「ガイドライン」だ。ここでいうコーポレート・ガバナンスとは、長期的なパフォーマンスの実現、不祥事を防止するメカニズムの構築などを指す。

 ガイドラインの主な項目を要約すれば下記のとおりとなる。
・取締役会の人選においては多様性(ダイバーシティ)に配慮する
・重要な意思決定と業務執行を監督するための議論が活発にできるよう、取締役会の議題を設定する
・取締役会出席に向け事前準備に要する期間に配慮して、資料を送付または説明する
・取締役会議長と業務執行役員を分離する
・社外取締役は社内外での知見・経験を生かし、外部の視点から忌憚のない意見を述べる
・経営戦略との関係で適切な人材か否かを、非業務執行役員の選任基準とする
・非業務執行役員の独立性について、法令上の基準に加え、具体的な基準(取引金額の数値基準など)を定める
・非業務執行役員の独立性を確保するため、最長在任期間を設ける
・非業務執行役員をサポートする人員を確保する

 これらのガイドラインが掲げる項目を実行した例が「ベスト・プラクティス」ということになるわけだが、上述の「中間とりまとめ」においても、「企業の選択については、普遍的な正解があるわけではなく、企業の経営環境の変化、それに伴う経営戦略の変化に応じて不断に検討されることが求められる」「社外役員を含む非業務執行役員に期待される役割も、各企業の置かれた状況、企業の経営戦略との関係で異なってくる」とあるように、ガイドラインのうち、ベスト・プラクティスの箇所は必ずしも鵜呑みにする必要はない。

 例えば、取締役会議案に関する事前の情報提供のベストプラクティスとして、「取締役会が開催される前の週に社内イントラネット上に資料がアップされ、資料を読み込んだ上で取締役会に臨む。また、アップされた資料に関する意見や質問をイントラに書き込むこともでき、事務局が事前に回答をする」というエネルギー会社の事例が紹介されているが(中間とりまとめ38ページ参照)、これはかなりの先進事例であり、かなりの規模の企業の間でも一般的とは言えないだろう。このような仕組みまでは構築しなくても、可能な範囲で事前に資料を送付したり説明を行っていれば足りる。

 また、業務執行役員に対する評価に対するペストプラクティスとして、「他社での執行経験のある社外取締役が、他の社外取締役とも協働して、(中略)社長の意向とは異なる人を社長に選任した。(中略)社長人事を巡る社内の紛争を防ぐことができた。」という精密機器会社の事例が紹介されているが(中間とりまとめ26ページ参照)、これはトップ人事を巡って抗争が生じるほどの異常事態における話であり、本来的に望まれるガバナンス機能とは考えにくい。通常は、社長の人事権を尊重しつつ、選定過程のプロセスチェックを尽くせば足りるだろう。

 さらに、社外取締役による経営に対するアドバイスのベストプラクティスとして、「海外情勢に詳しい社外取締役からは、(中略)今後の事業の進め方について意見を述べてもらっている。過去には、ある地域への事業展開にあたり、(当該取締役が)現地当局との橋渡し的役割を果たし、その結果当該地域でのビジネスに成功できた」という輸送用機器の事例が紹介されている(中間とりまとめ21ページ参照)。ただ、この文章だけを読むと当該社外取締役は非業務執行役員とは言いにくく、独立した立場からの監督を徹底できるか疑わしい。もちろん、直接的なビジネス貢献を否定するわけでは全くないが、このような貢献はあくまで副次的、例外的なケースととらえるべきだろう。

 結局、各社がそれぞれの身の丈の範囲内で、自社に合った取締役会運営を追及していくのが望ましいと言えそうだ。

2014/07/11 取締役会運営のガイドラインとベスト・プラクティスが公表

 コーポレートガバナンスの中核を担う取締役会だが、その運営スタイルは企業によってかなり異なるのが実情だろう。

 こうした中、2012年3月から社外役員を含む非業務執行役員に期待される役割などについて検討してきた経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会(以下、経産省研究会)はこのほど、取締役会運営のベストプラクティスをまとめた「社外役員等に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)をとりまとめた。ガイドラインのタイトルが「取締役」でなく「役員」となっているのは、日本特有の制度である「監査役」にも焦点を当てているため。

 ガイドラインの作成にあたっては、経産省研究会の事務局が、社外役員を含む非業務執行役員および企業側における取締役会の担当者などに対してヒアリングを実施、多様な事例(=ベスト・プラクティス。「社外役員を含む非業務執行役員の役割・サポート体制等に関する中間取りまとめ」13ページ~参照)を得ている。これらの事例を踏まえて、「良質なコーポレート・ガバナンスを確保するために求められる、または望まれる事項」としてまとめたのが「ガイドライン」だ。ここでいうコーポレート・ガバナンスとは、長期的なパフォーマンスの実現、不祥事を防止するメカニズムの構築などを指す。

 ガイドラインの主な項目を要約すれば下記のとおりとなる。
・取締役会の人選においては多様性(ダイバーシティ)に配慮する
・重要な意思決定と業務執行を監督するための議論が活発にできるよう、取締役会の議題を設定する
・取締役会出席に向け事前準備に要する期間に配慮して、資料を送付または説明する
・取締役会議長と業務執行役員を分離する
・社外取締役は社内外での知見・経験を生かし、外部の視点から忌憚のない意見を述べる
・経営戦略との関係で適切な人材か否かを、非業務執行役員の選任基準とする
・非業務執行役員の独立性について、法令上の基準に加え、具体的な基準(取引金額の数値基準など)を定める
・非業務執行役員の独立性を確保するため、最長在任期間を設ける
・非業務執行役員をサポートする人員を確保する

 これらのガイドラインが掲げる項目を実行した例が「ベスト・プラクティス」ということになるわけだが、上述の「中間とりまとめ」においても、「企業の選択については、普遍的な正解があるわけではなく、企業の経営環境の変化、それに伴う経営戦略の変化に応じて不断に検討されることが求められる」「社外役員を含む非業務執行役員に期待される役割も、各企業の置かれた状況、企業の経営戦略との関係で異なってくる」とあるように、ガイドラインのうち、ベスト・プラクティスの箇所は必ずしも鵜呑みにする必要はない。

 例えば、・・・

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2014/07/10 【失敗学第4回】小僧寿し社の事例(会員限定)

概要

 外食業の株式会社小僧寿し(JASDAQ)で、社長主導により不明瞭な支出や回収リスクを軽視した貸付けが行われていたことが発覚し、社長交代へとつながった。

経緯

 小僧寿し社における社内調査委員会の調査報告書(2014年6月20日付)公表までの経緯を時系列で示すと、次のとおり(役職名はすべて当時)。

<2013年>
12月3日:小僧寿し社の代表取締役社長に大西氏(以下、社長)が就任。就任後、子会社を通じてフランチャイズチェーン等に運転資金の貸付等を行う金融事業への進出(金融事業会社の買収)を計画。

<2014年>
1月:買収候補となる金融事業会社の調査を開始。
2月5日:貸金業登録のある株式会社サクラ商事(以下、サクラ商事)を候補に選定し、サクラ商事の貸金業登録に関する行政への申請手続等に関与していたA(サクラ商事の債権者でもある)の仲介で、社長とサクラ商事の代表取締役B(サクラ商事の株主でもある。以下、B)が面談。その後、Aと社長の間で、Aがサクラ商事のデューデリジェンス*を400万円で行うことについて合意。
2月6日:社長から指示を受けた人事総務部長が、「子会社設立関連の件」の件名で400万円の仮払金の支払いについて稟議を申請。
2月10日:小僧寿し社が社長の口座に、サクラ商事への調査費等の名目で400万円を支払う(社長が自らAに支払う)。
2月12日:管理本部長が、「子会社設立関連の件」の稟議の承認を保留。
3月31日:定時株主総会が開催され、社外取締役3名を選任。
4月14日:小僧寿し社に幹部候補で入社した従業員の人材紹介仲介料として、小僧寿し社がX社に292万円を支払う。
4月18日:小僧寿し社がサクラ商事の全株式を取得することを取締役会で決議し、同日、株式会社サクラ商事の商号は「株式会社小僧寿しファイナンス」に変更。
5月1日:小僧寿し社から小僧寿しファイナンスへの貸付けの稟議が申請され、同日社長が決裁。
5月2日:小僧寿し社から小僧寿しファイナンスへ5,000万円の貸付けが実行され、同日のうちに、小僧寿しファイナンスから4,457万円が“権限のない者”によって引き出された。
5月6日:会計監査人である東陽監査法人より小僧寿し社常勤監査役に対して、4月14日に支払われた人材紹介料の妥当性についての調査の依頼。
5月14日:小僧寿し社に突然、サクラ商事の代表取締役だったBが来社し、対応した社員に4,400万円を渡してそのまま立ち去った。
5月14日以降:取締役会または社外取締役が、断続的に社長に対し代表取締役辞任を要求。
5月15日:小僧寿し社に社内調査委員会が設置され、5月19日~6月19日までの間、調査が実施される。
5月26日:臨時取締役会が開催され、プロパーの執行役員渡邉氏を代表取締役候補に選任することを決議。また、現社長より、一刻も早く新経営体制に移行するため、「代表取締役としての対外的、対内的な権限の一部(契約締結行為、債務負担行為を含む)を行使しないこと」および「執行役員である渡邉氏にその一部の業務執行権限(代理権)を付与すること」の表明があったことから、渡邉氏に代表取締役としての権限の一部を付与することを決議し、その旨をリリース。
6月20日:社内調査委員会の調査報告書が公表される。

* 投資対象の資産価値、収益力などを調査すること

内容・原因・改善策

 社内調査委員会の調査報告書によると、本件の主な問題点は次のとおりである(肩書きは報告書当時のもの)。

サクラ商事の株式取得

内容 ・子会社を通じてフランチャイズチェーン等に対する運転資金の貸付等を行う金融事業への進出を計画し、事業計画が不十分のまま、貸金業登録を有するサクラ商事の株式を取得した。
・サクラ商事の株式取得に先立ち、経営会議や取締役会で、金融子会社に関する事業計画が提示されることはなかった。
原因 ・社長自身が金融子会社に関する事業計画を十分に把握していなかった。
・経営会議は、金融子会社株式の取得に際して、会社の意思決定に関わる重要な機関としての機能を果たせていなかった。
・経営会議には従来から常勤監査役が出席していたが、経営会議における検討状況や議案の問題点等について、監査役会での情報共有が十分でなかった。
・社長に対し、事業計画等の具体的な資料を提示したうえで経営会議の議案にするよう進言した幹部従業員(既に退職)もいたものの、その幹部従業員の危機意識が経営会議で共有されることはなかった。また、社内で十分な検討がなされないままサクラ商事の子会社化の話が進展していることの危険性も、取締役会に適切に伝わらなかった。
・内部通報制度の通報先が、従業員の人事に関与する人事総務部門に限られていたため、経営トップによる不適正な業務を発見した従業員が通報を躊躇し、内部通報制度が機能していなかった。
・取締役会の体制が、社長および平成26年3月31日に就任したばかりの2名の社外取締役(弁護士兼会計士1名、税理士1名)から構成されていた。社内の取締役は社長以外にはおらず(社内に社長をけん制する取締役が存在しない状態)、また社外取締役も就任したばかりで、社長に対する牽制が効いていなかった。
・コンプライアンス・リスク管理委員会制度が整備されていたが、同委員会のメンバーが経営会議のメンバーと重なるため、経営会議と併せて実施されるようになり、運用が形骸化していた。
改善策案 ・社長の交代
・経営会議に議案として提出され、または報告された案件については、経営会議での議論に必要な資料を関係役員または幹部従業員に提示させたうえで、実質的な議論を行う。
・経営会議で議論された内容や提起された問題点は、重要性によっては担当の幹部従業員等が取締役会に報告するなど、適切に取締役会に伝達される仕組みを構築する。
・取締役会の前に開催される監査役会において、経営会議における議案の問題点等についてあらかじめ情報共有を図り、これらが取締役会に適切に伝達されているかチェックする。
・内部通報制度の窓口を、監査役、社外監査役にも拡充する。
・監査役の監査業務に、経営トップおよび幹部従業員らとの定期的な面談等を組み入れ、経営トップの問題行為を早期に発見するよう努める。
・コンプライアンス・リスク管理委員会は経営会議とは別の機会に開催するようにし、同社が属する業界における不祥事について情報共有を図ったうえで議論したり、また、社外監査役を同委員会のオブザーバーとし、同委員会がその機能を果たしているかどうかをチェックさせる。
・一定額を超える支出については、たとえ経営トップの指示であっても、支出の根拠となる資料や、その支出が社内の意思決定手続を経て行われているかを確認するための経営会議等の議事録等を添付させるなど、経理部門によるチェックを強化する。

サクラ商事のDD*費用

* デューデリジェンス(Due diligenceの頭文字)。

内容 サクラ商事のDDを担当したA(社長とサクラ商事の代表取締役Bの面談を仲介した者)はサクラ商事の債権者でもあるため、そもそもDDの依頼先としては中立性を欠き、不適切であった。また、Aから見積書も入手しておらず、人事総務部長が申請した稟議書も「子会社設立関連の件」という実態と異なる稟議書であった(「設立」ではない)。さらに、Aが作成した調査報告書はDDの成果物と言える内容ではなく、Aに支払ったDD費用400万円も適正なものとは言えない。
原因 ・人事総務部長が、実態と異なる「子会社設立関連の件」の件名で400万円の仮払金の支払いについて稟議を申請したのは、すべて社長の指示によるものであった。もっとも、社長からの指示とはいえ、不明朗な稟議申請を行った点で、人事総務部長もコンプライアンスに対する意識が希薄であった。
・小僧寿し社の稟議システム(稟議制度を社内LANで運用するためのシステム)上、申請さえなされれば、たとえ社長に至るまでの中間承認者の承認が得られなくても、社長が即決裁することが可能であった(社長の決裁が行われた場合には、その中間の役職員は後閲*承認を行うことになっていた)。
・社長以外の役職員は、誰一人として本DD費用の支払いに実質的に関与していなかった。社長は、見積書の提示がないにもかかわらず、Aから口頭で言われた400万円をそのまま支払っており、リスクに対する認識が希薄であった。
・DDを依頼する際に、Aと対象会社(サクラ商事)との間の利害関係の有無について調べていなかった。
・社長に対する牽制が効いていなかった。

* 後で見せること。承認をスムーズにするために行われる。不在の中間承認者をいったん飛ばしたり、代理決裁した後、正規の決裁権限者が閲覧する場合に用いる。

改善策案 ・社長の交代
・社長に対して、400万円を小僧寿し社に返還するよう請求する。
・支出の根拠となる契約関係等に関与していない従業員による稟議申請を原則禁止する。
・稟議内容について後閲決裁をする場合には、その理由を稟議システム上に掲載し、かつ問題点を指摘した従業員の承認を経ない場合には、合理的な理由がない限り、資金の支出ができない運用体制を構築する。
・一定金額以上の支出に関する稟議申請があった場合、その報告ルートに常勤監査役を追加するとともに、稟議書の後閲承認制度は利用しない(常勤監査役の承認をスキップすることはできない)。

サクラ商事のDD費用

内容 サクラ商事のDDを担当したA(社長とサクラ商事の代表取締役Bの面談を仲介した者)はサクラ商事の債権者でもあるため、そもそもDDの依頼先としては中立性を欠き、不適切であった。また、Aから見積書も入手しておらず、人事総務部長が申請した稟議書も「子会社設立関連の件」という実態と異なる稟議書であった(「設立」ではない)。さらに、Aが作成した調査報告書はDDの成果物と言える内容ではなく、Aに支払ったDD費用400万円も適正なものとは言えない。
原因 ・人事総務部長が、実態と異なる「子会社設立関連の件」の件名で400万円の仮払金の支払いについて稟議を申請したのは、すべて社長の指示によるものであった。もっとも、社長からの指示とはいえ、不明朗な稟議申請を行った点で、人事総務部長もコンプライアンスに対する意識が希薄であった。
・小僧寿し社の稟議システム(稟議制度を社内LANで運用するためのシステム)上、申請さえなされれば、たとえ社長に至るまでの中間承認者の承認が得られなくても、社長が即決裁することが可能であった(社長の決裁が行われた場合には、その中間の役職員は後閲 承認を行うことになっていた)。
・社長以外の役職員は、誰一人として本DD費用の支払いに実質的に関与していなかった。社長は、見積書の提示がないにもかかわらず、Aから口頭で言われた400万円をそのまま支払っており、リスクに対する認識が希薄であった。
・DDを依頼する際に、Aと対象会社(サクラ商事)との間の利害関係の有無について調べていなかった。
・社長に対する牽制が効いていなかった。
改善策案 ・社長の交代
・社長に対して、400万円を小僧寿し社に返還するよう請求する。
・支出の根拠となる契約関係等に関与していない従業員による稟議申請を原則禁止する。
・稟議内容について後閲決裁をする場合には、その理由を稟議システム上に掲載し、かつ問題点を指摘した従業員の承認を経ない場合には、合理的な理由がない限り、資金の支出ができない運用体制を構築する。
・一定金額以上の支出に関する稟議申請があった場合、その報告ルートに常勤監査役を追加するとともに、稟議書の後閲承認制度は利用しない(常勤監査役の承認をスキップすることはできない)。
・コンプライアンスおよびリスク管理意識の向上を図るため、役職別の研修を定期的に実施するとともに、研修を通じて今回の不祥事の原因の分析、改善策等を従業員に周知徹底する。
・一定額を超える支出については、たとえ経営トップの指示であっても、その支払の根拠となる資料や、当該支出が社内の意思決定手続を経て行われていることを確認するための経営会議の議事録等を添付させるなどにより、経理部門のチェックを強化する。

幹部候補者の人材紹介料の支払い

内容 社長は、知人Cに対し幹部候補の人材の紹介を依頼、Cより銀行勤務経験者Eを紹介され、Eは入社に至った。ところが、社長の指示により、実際に紹介を行ったCではなく、紹介とは無関係のX社(Aが代表取締役を務めていた)に紹介料が支払われた。
原因 ・人事総務部長が、「E氏紹介の件」の件名でX社に紹介料を支払う旨の稟議を申請したのは、すべて社長の指示によるものであった。社長は、事情を知らない人事総務部長に事実と異なる名目での稟議申請を指示していた。
・社長以外の役職員は、誰一人として本件人材紹介料の支払いに実質的に関与していなかった。
・社長に対する牽制が効いていなかった。
改善策案 ・社長の交代
・社長に対して、292万円を小僧寿し社に返還するよう請求する。
・一定額を超える支出については、たとえ経営トップの指示であっても、その支払の根拠となる資料や、支出が社内の意思決定手続を経て行われているかを確認するための経営会議の議事録等を添付させるなどにより、経理部門のチェックを強化する。

子会社への貸付

内容 ・小僧寿し社が貸金業者であるサクラ商事の全株式を取得した後、商号を株式会社小僧寿しファイナンスに変更し、運転資金として5,000万円を貸し付けた。
・サクラ商事のDDは行われておらず、サクラ商事の債務はすべてAが代表取締役を務めるX社が引き受けるとする債務引受書に債権者らの署名押印があったが、債権者らの印鑑証明は添付されていなかったため、X社による免責的債務引受*の手続は完了したとは言えない状況であった。
・X社による免責的債務引受の手続が2014年5月末までに完了しなかった場合は、B(サクラ商事代表取締役)との間で締結したサクラ商事株式の譲渡契約を解除できることになっていた。しかし、譲渡契約を解除できたとしても、運転資金の貸倒リスクは残る。この点について社長は、当該貸倒リスクがあったとしても、運転資金の貸付は小僧寿しファイナンスの営業黒字を達成するための「経営判断」であると主張している。しかし、その経営判断の中身(小僧寿しファイナンス社の利益の目標、金利、資金調達の方法等)について実質的な説明はなかった。

* 債務を別の者が引き受けること。「免責的」とは、当初の債務者が債務を負わなくなることを意味している。ちなみに、当初の債務者が引き続き債務を負い続けることを、併存的債務引受(重畳的債務引受とも言われる)と言う。

原因 ・社長に対する牽制ができていなかった。
・貸付金の取締役会付議基準(取締役会に諮ることが必要になる金額基準)が1億円以上と高額に設定されていた。
改善策案 ・社長の交代
・貸付金の取締役会付議基準の引下げ

子会社の預金の引出し

内容 ・小僧寿し社が小僧寿しファイナンスに貸し付けた運転資金5,000万円のうち、小僧寿し社が立て替えていた事務所保証金等に相当する約543万円が小僧寿し社に振り込まれた後、残額の4,457万円が貸付日当日に引き出されていた。この資金の引出しは小僧寿しファイナンス社の社内決裁を経ておらず、資金の使途も不明であった。
・銀行印を保管していたのは小僧寿し社の社長であったが、払戻請求書には社長とは異なる筆跡による社長名が記載されていた。
原因 ・社長に対する牽制が効いていなかった。
改善策案 ・社長の交代
・4,400万円はB(サクラ商事代表取締役)が小僧寿し社に返金した。
<この失敗から学ぶべきこと>

 本件は、社長が暴走した場合の歯止めの有無や、その有効性が問われた事案でした。

 代表取締役の業務執行を監督する役目を担うのが取締役会です。しかし、小僧寿し社では、取締役や監査役の退任が相次ぎ、それに伴い、取締役会が代表取締役を監督する機能が次第に失われていきます。2014年3月31日に開催された定時株主総会からわずか3週間も経たないうちに、大西社長以外の常勤取締役はゼロとなりました。

<直近の役員の変遷(日付はすべて2014年)>
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 小僧寿し社がサクラ商事の全株式を取得することを決議したのは4月18日ですが、その時点で大西社長以外の取締役は社外取締役の2人だけです。しかも、2人とも取締役に就任してからわずか2週間しか経過していませんでした。このような極めて異例な状況下で、取締役会に会社のガバナンス機能を期待するのは“酷”と言えるかも知れません。

 ただ、社外取締役の2人とも専門家(1人は弁護士兼会計士、もう1人は税理士)です。しかも、4月に入ってから取締役が2名も辞任しており、社長との間で何らかのせめぎ合いがあったことが推測されます。このような中で、事業計画を示すこともなく金融子会社株式取得に関する議案が取締役会に提出された場合、投資家が社外取締役に期待することは何でしょうか。

 計画もないまま社長主導で事業を進めることは“経営”とは言えません。新規事業や株式取得を伴う事業においてはなおさらです。社長主導であれば、取締役や従業員にブレーキ役を期待するのは難しいでしょう(しかも本事案の場合、サクラ商事の全株式を取得することを決議した時点で社長以外の常勤取締役”はいませんでした)。このような事態に陥ることを防ぐために、投資家は社外取締役に“お目付役”としての機能を果たすことを期待しているのです。この投資家の期待に社外取締役が応えようとするのであれば、取締役会で金融子会社株式取得に関する議案を承認するのに先立ち、詳細な事業計画の提出を社長に要求すべきでした。

 また、小僧寿し社の稟議システムでは、稟議申請後、社長に至るまでの決裁ルートの中間にいる役職者の承認が得られなくても、社長が決裁することで稟議は最終決裁され、飛ばされた中間の役職者は後閲*を行うという仕組みでした。この方法は、「承認者が多忙な場合、申請から決裁まで時間がかかってしまう」という稟議制度の問題点の解決には役立ちます。しかし、その代わりに「社内の各階層の役職者の承認を経ることにより、多数の知恵を反映させる」という集団的意思決定の良さは犠牲になってしまいます。また、社長が暴走した場合、歯止めが効かなくなる(社長が承認した案件を、中間役職者が事後的に否決することは事実上困難)恐れもあります。

 小僧寿し社は、大西社長が代表取締役権限を行使しないという意思表明を行い、次期社長で現「執行役員」である渡邉氏に業務執行権限(代理権)を付与するという非常措置を講じています。通常であれば、代表権を別の「取締役」に譲ることになるのでしょうが、常勤取締役がゼロであればそれもできないことから、このような措置が取られたものと思われます。取締役の数を減らして取締役会のスマート化を図り、スピーディな経営を実現するのが最近のトレンドですが、あまりに減らしすぎることのリスクを痛感する事案と言えるでしょう。

* 後で見せること。承認をスムーズにするために行われる。不在の中間承認者を飛ばすケースや代理承認した後、承認権限者が閲覧する場合にも用いる。

2014/07/10 (新用語・難解用語)Comply or Explain

 日本語訳すれば、「ルールに従え(comply)、従わないのであればその理由を説明せよ(explain)」となる。

 法令や規則は基本的には「従う」ことが前提となっているが、法令や規則に準ずるいわゆる“ソフト・ロー”で、この「Comply or Explain」という手法が取り入れられることが多い。その典型例が、最近我が国でも導入されたスチュワードシップ・コード(2014年3月20日の新用語・難解用語「スチュワードシップ・コード」参照)、導入が予定されるコーポレートガバナンス・コード(2014年5月19日「大人数の取締役会はNG?「コーポレートガバナンス・コード」制定の動き」参照)だ。両コードともイギリス版をモデルにしているように、Comply or Explainも元々はイギリスで生まれ、同国のコーポレートガバナンス推進策の基本方針となっている。

 Comply or Explainでは、法令等で強制するのではなく、従う(comply)かどうかは企業の自主性に任せつつ、従わない場合には説明責任(explain)を果たしたうえで、それをどう評価するかは投資家などのステークホルダーに任せる、というスタンスをとっている。その意味では、企業に選択の自由を与える手法ではあるものの、日本版スチュワードシップ・コードが導入初年度から多くの機関投資家に受け入れられたように(2014年6月18日のニュース「日本版スチュワードシップ・コードによる議決権行使厳格化で「否決」増加も」参照)、現実には一定の“強制力”があると言えるだろう。

 Comply or Explainの考え方は、日本では新しい規制の手法ではあるが、実は日本版スチュワードシップ・コード導入前にも存在している。

 その1つは、・・・

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2014/07/10 (新用語・難解用語)Comply or Explain(会員限定)

 日本語訳すれば、「ルールに従え(comply:コンプライ)、従わないのであればその理由を説明せよ(explain:エクスプレイン)」となる。

 法令や規則は基本的には「従う」ことが前提となっているが、法令や規則に準ずるいわゆる“ソフト・ロー”で、この「Comply or Explain」という手法が取り入れられることが多い。その典型例が、最近我が国でも導入されたスチュワードシップ・コード(2014年3月20日の新用語・難解用語「スチュワードシップ・コード」参照)、導入が予定されるコーポレートガバナンス・コード(2014年5月19日「大人数の取締役会はNG?「コーポレートガバナンス・コード」制定の動き」参照)だ。両コードともイギリス版をモデルにしているように、Comply or Explainも元々はイギリスで生まれ、同国のコーポレートガバナンス推進策の基本方針となっている。

 Comply or Explainでは、法令等で強制するのではなく、従う(comply)かどうかは企業の自主性に任せつつ、従わない場合には説明責任(explain)を果たしたうえで、それをどう評価するかは投資家などのステークホルダーに任せる、というスタンスをとっている。その意味では、企業に選択の自由を与える手法ではあるものの、日本版スチュワードシップ・コードが導入初年度から多くの機関投資家に受け入れられたように(2014年6月18日のニュース「日本版スチュワードシップ・コードによる議決権行使厳格化で「否決」増加も」参照)、現実には一定の“強制力”があると言えるだろう。

 Comply or Explainの考え方は、日本では新しい規制の手法ではあるが、実は日本版スチュワードシップ・コード導入前にも存在している。

 その1つは、東京証券取引所は企業行動規範の「望まれる事項」にある。ここでは、上場会社に対して「会計基準の内容又はその変更等についての意見発信及び普及・コミュニケーションを行う組織・団体」、つまり「公益財団法人財務会計基準機構(FASF)」の会員になることを促すとともに、「事業年度経過後3か月以内に、当該事業年度の末日における公益財団法人財務会計基準機構への加入状況の開示」を求めている(有価証券上場規程409条の2)。要するに、財務会計基準機構の非会員である上場会社は、本決算の都度、「なぜ入らなくてもいいと判断したのか」のexplain(適時開示)を求められるということであり、これはまぎれもなく「Comply or Explain」に当たる。

 また、東京証券取引所が、上場会社に1単位当たりの価格が5万円以上50万円未満の水準となるよう努力義務を課しており(有価証券上場規程445条)、もし1単位当たりの価格が50万円以上である場合は、事業年度経過後3か月以内に、「50万円を切る水準へ移行するための投資単位の引下げに関する考え方および方針」の開示を求めている(有価証券上場規程409条)。2014年6月20日に成立した改正会社法では、「社外取締役を選任していない場合には、株主総会で『社外取締役を置くことが相当でない理由』を説明すること」を求めている(改正後の会社法327条の2)。これも「Comply or Explain」に該当する。

 このように、「Comply or Explain」は今後の日本のコーポレートガバナンスにおいて益々必出の考え方となっていくはずなので、役員としては是非押さえておきたいところだ。