2014/07/09 社員のSNS利用をどう規制する?

 総務省が公表している「情報通信白書」によれば、日本では現在、1億人近い人がインターネットを利用しているという。特に最近は、ツイッターやフェイスブックに代表されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用が急拡大しており、単に情報を得るだけではなく、時には実名を用いてネット上で双方向のコミュニケーションを図る時代となっている。

 SNSがここまで普及した理由としては、まるで隣にいる知り合いと話すかのように簡単に投稿ができ、即座に反応が期待できることにある。SNSは“誰かと繋がる”という人間本来の欲求を満たすものと言えよう。

 ただ、このような特徴を持つSNSだけに、第三者も閲覧可能なインターネットを利用しているにもかかわらず公私の区別が曖昧となり、問題行動へとつながりやすい。業務上知り得た情報をSNS上に投稿して、会社の管理体制が問われたケースもある。SNSの恐さは、情報の拡散性とそのスピード、誰もがリスクの種になり得るという点にある。簡単に投稿ができる一方で、一度拡散した情報を完全に消去することは不可能である。総務部門等が社員による情報漏えいや会社への誹謗中傷などをネット上で発見した時には既に手遅れであることが多い。

 では、会社としてはどのような対策をとるべきだろうか。

 まず最低限求められるのが・・・

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2014/07/09 社員のSNS利用をどう規制する?(会員限定)

 総務省が公表している「情報通信白書」によれば、日本では現在、1億人近い人がインターネットを利用しているという。特に最近は、ツイッターやフェイスブックに代表されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用が急拡大しており、単に情報を得るだけではなく、時には実名を用いてネット上で双方向のコミュニケーションを図る時代となっている。

 SNSがここまで普及した理由としては、まるで隣にいる知り合いと話すかのように簡単に投稿ができ、即座に反応が期待できることにある。SNSは“誰かと繋がる”という人間本来の欲求を満たすものと言えよう。

 ただ、このような特徴を持つSNSだけに、第三者も閲覧可能なインターネットを利用しているにもかかわらず公私の区別が曖昧となり、問題行動へとつながりやすい。業務上知り得た情報をSNS上に投稿して、会社の管理体制が問われたケースもある。SNSの恐さは、情報の拡散性とそのスピード、誰もがリスクの種になり得るという点にある。簡単に投稿ができる一方で、一度拡散した情報を完全に消去することは不可能である。総務部門等が社員による情報漏えいや会社への誹謗中傷などをネット上で発見した時には既に手遅れであることが多い。

 では、会社としてはどのような対策をとるべきだろうか。

 まず最低限求められるのが、SNSポリシーの策定だ。SNSポリシーには、(1)個人としての発言が会社のブランドイメージに傷をつける可能性があることを自覚すること、(2)企業秘密・個人情報その他の法令を遵守すること、(3)投稿する内容を慎重に吟味すること、(4)自社に関する書き込み等を見つけた場合には社内で共有すること、などを盛り込むほか、万が一会社に対して損害賠償請求が提起された場合に備えて、会社の免責条項を入れておくことも必要になろう。このSNSポリシーは、アルバイト従業員にも遵守させる必要がある。むしろ、会社に対する帰属意識が薄いアルバイト従業員の方が、安易な書き込みをするリスクは高い。アルバイト従業員を雇い入れる際には、SNSポリシーについて丁寧に説明することが必要だろう。

 もっとも、SNSポリシーの内容は、どうしても抽象的にならざるを得ない。したがって、単にSNSポリシーを定めるだけにとどまらず、世間を騒がせた具体的な事例を取り上げ、SNSポリシーがどのような意味で定められているのか、万が一問題が起こった場合には会社や利害関係者、そして自分自身にどのような不利益が生じるかについて十分な理解を促す社内研修を実施し、リスクに対する認識の共有を図っておくことが必要となろう。場合によっては、(表現の自由の観点からSNSの利用自体を禁止することはできないものの)個人のSNS上に会社名を出すことを禁止することも検討に値するだろう。

 また、SNSを使った問題行動は、就業規則に定められる「会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと」という服務規律に違反し、懲戒処分の対象になることを事前に従業員にアナウンスしておくことで、ある程度の抑止力となることが期待できよう。

2014/07/08 社外取締役と社外監査役の選任、優先順位が高いのは?

 平成26年6月20日、今通常国会で成立した改正会社法だが、その施行日は、会社側の準備期間を考慮し、「公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。まだ正式に決まってはいないものの、「平成27年4月1日」からの施行が有力だ。

 会社としては、施行日までに改正項目に対応する必要があるが、特に準備期間が必要なのが、社外取締役および社外監査役の要件の厳格化への対応であろう。人材の確保には時間がかかるからだ。

 改正会社法の内容をおさらいすると、社外取締役及び社外監査役ともに、(1)親会社の業務執行者等、(2)兄弟会社の業務執行者等、(3)業務執行者等の近親者でないものであること――との要件が追加されている。社外監査役を例にとると、現状、親会社の総務部長などに子会社の社外監査役を兼務させているケースがよくあるが、今後はこうした親会社の人材を子会社の社外取締役や社外監査役とすることはできなくなる。

 とはいえ、会社にとって、社外取締役と社外監査役を一気に確保するのは容易ではない。では、そのどちらの選任を優先すべきだろうか。

 上述のとおり、改正会社法の施行日は「平成27年4月1日」となる見込みだが、これには経過措置が設けられており、・・・

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2014/07/08 社外取締役と社外監査役の選任、優先順位が高いのは?(会員限定)

 平成26年6月20日、今通常国会で成立した改正会社法だが、その施行日は、会社側の準備期間を考慮し、「公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。まだ正式に決まってはいないものの、「平成27年4月1日」からの施行が有力だ。

 会社としては、施行日までに改正項目に対応する必要があるが、特に準備期間が必要なのが、社外取締役および社外監査役の要件の厳格化への対応であろう。人材の確保には時間がかかるからだ。

 改正会社法の内容をおさらいすると、社外取締役及び社外監査役ともに、(1)親会社の業務執行者等、(2)兄弟会社の業務執行者等、(3)業務執行者等の近親者でないものであること――との要件が追加されている。社外監査役を例にとると、現状、親会社の総務部長などに子会社の社外監査役を兼務させているケースがよくあるが、今後はこうした親会社の人材を子会社の社外取締役や社外監査役とすることはできなくなる。

 とはいえ、会社にとって、社外取締役と社外監査役を一気に確保するのは容易ではない。では、そのどちらの選任を優先すべきだろうか。

 上述のとおり、改正会社法の施行日は「平成27年4月1日」となる見込みだが、これには経過措置が設けられており、3月決算会社であれば「平成28年6月の定時株主総会」で新たな要件を満たす社外取締役および社外監査役を選任すればよい。

 ただし、改正会社法では、社外取締役を選任していない場合には、株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明するほか、事業報告および株主総会参考書類にその理由を記載することを求めており、この改正項目は適用が1年早く「平成27年6月の定時株主総会」からとなる。

 したがって、まず優先すべきは「社外取締役の選任」ということになる。もっとも、社外監査役についても人材の争奪戦は既に始まっているため、できるだけ早い対応が必要になるのは言うまでもない。

2014/07/07 評価されるIR活動と新任取締役に求められる意識

 3月決算法人の株主総会が終わり、先月(6月)から着任した取締役も多いことだろう。

 新任取締役に是非お勧めしたいのが、決算説明会への出席や、担当業務に関するスモールミーティングを開催してアナリストと対峙するといった活動への参加だ。実際、IRに対して先進的な意識を持っている企業では、これらの活動を新任取締役に義務付けているところもある。

 優れたIR活動を行っている会社を表彰する代表的なイベントとして、東京証券取引所の「上場会社表彰」、日本証券アナリスト協会の「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」、日本IR協議会の「IR優良企業賞」があるが(これらを総称して「IR三賞」と呼ばれることもある)、これらのイベントでIR優良企業を選んだ際の理由として、必ずと言っていいほど挙げられるのが、「経営トップによる主体的なIR活動への参画」である。投資家やアナリストに企業の価値をアピールする役割を果たすのは、経営トップがもっとも適任だからだ。また、IR部門が社内の軋轢を回避して情報開示に努めるためには、経営トップによる支援が欠かせないということもある。

 一方で、経営トップやIR担当取締役などを除いた他の取締役が、IR活動を“他人事”のように捉えているという上場会社も少なくないようだ。営業や生産など担当の職務を担っている各取締役の中には、「IRは責任範囲外」と決め付けている向きも少なくないのではないだろうか。

 しかし、取締役には・・・

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2014/07/07 評価されるIR活動と新任取締役に求められる意識(会員限定)

 3月決算法人の株主総会が終わり、先月から着任した取締役も多いことだろう。

 新任取締役に是非お勧めしたいのが、決算説明会への出席や、担当業務に関するスモールミーティングを開催してアナリストと対峙するといった活動への参加だ。実際、IRに対して先進的な意識を持っている企業では、これらの活動を新任取締役に義務付けているところもある。

 優れたIR活動を行っている会社を表彰する代表的なイベントとして、東京証券取引所の「上場会社表彰」、日本証券アナリスト協会の「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」、日本IR協議会の「IR優良企業賞」があるが(これらを総称して「IR三賞」と呼ばれることもある)、これらのイベントでIR優良企業を選んだ際の理由として、必ずと言っていいほど挙げられるのが、「経営トップによる主体的なIR活動への参画」である。投資家やアナリストに企業の価値をアピールする役割を果たすのは、経営トップがもっとも適任だからだ。また、IR部門が社内の軋轢を回避して情報開示に努めるためには、経営トップによる支援が欠かせないということもある。

 一方で、経営トップやIR担当取締役などを除いた他の取締役が、IR活動を“他人事”のように捉えているという上場会社も少なくないようだ。営業や生産など担当の職務を担っている各取締役の中には、「IRは責任範囲外」と決め付けている向きも少なくないのではないだろうか。

 しかし、取締役には株主のために企業価値を高める義務があり、自分の担当分野に注力するだけでは事足りない。常に全社的な視点を持って業務に当たるべきであり、それには「IR=株主重視」の意識は大いに役立つはずだ。“取締役候補”としての執行役員も同様である。

 なかには、IR担当役員として直接IR活動に関与させることを、将来の経営トップを育成するための重要なプロセスと位置付けている企業もある。役員自身としても、更なるキャリアアップの一助として、IRに対する関心を高め、積極的に関与していくことが望ましいと言えよう。

2014/07/05 【2014年6月の課題】ホールディング体制への移行:解答(会員限定)

ホールディング体制とは?

 経済産業省の「平成25年純粋持株会社実態調査確報」によると、我が国には291社の純粋持株会社が存在しています。「純粋持株会社」とは、本業を持たず他社の株式を保有することを主たる目的とする会社であり、これが頂点となって複数の事業子会社を支配するグループ構造を「ホールディング体制」と呼んでいます。ホールディング体制においては、子会社が事業を通じて収益を獲得、純粋持株会社の収益源泉は子会社からの配当が主なものとなります。

 純粋持株会社は、終戦後、ホールディング体制を採用していた財閥を解体するため、新たに制定された独占禁止法によって一度は禁止されました。しかし、財閥支配が過去のものとなり、また海外ではホールディング体制はごく一般的ということもあって、1997年の独占禁止法改正によって、再び純粋持株会社が解禁されました。なお、2002年に連結納税制度が創設されたため、同制度を適用する純粋持株会社グループは、グループ内の複数の会社間で損益を通算することが可能となっています。

 ホールディング体制に移行する企業数が特に多かったのが2006年から2008年にかけてです。当時、日本経済は戦後最長の景気回復期にあり、企業の投資意欲は旺盛で、グローバル展開やM&A戦略を推進する方策として、積極的にホールディング体制が採用されました。その後、リーマンショックを受けて、ホールディング体制に移行する企業数は減少したものの、2013年からの景気回復を背景に、このところ再び活発になっています。

 ホールディング体制に移行する手法としては、(1)会社分割、(2)株式移転、の2つが主に用いられています。(1)では、既存会社は事業を分離する形で子会社として分割、既存会社は事業を持たない純粋持株会社に移行して親会社となります。(2)では、既存会社の株式を移転することにより新たに純粋持株会社を設立、既存会社は純粋持株会社を親会社とする事業子会社として、その傘下に入ります。上記の経済産業省の調査によると、(1)が42.6%、(2)が44.3%と拮抗しています(残りは(1)(2)の組み合わせなど)。

 一方、「移行する目的」によってホールディング体制のタイプを分けると、主に(1)分社型、(2)統合型、の2つがあります。(1)は、1つの既存会社の内部組織を、純粋持株会社と事業子会社に分割するケースが典型的です。(2)は、複数の既存会社が新たな純粋持株会社の下、経営統合を進めるケースにおいてよく見られます。上述の移行方式と関連付けると、「分社型」では「会社分割」が、「統合型」では「株式移転」が、それぞれ多く用いられています。

 今回の課題は、新社長の就任を機に「分社型のホールディング体制」に移行することが相当か否か、役員の立場で検討を求めるもの、ということになります。

ホールディング体制のメリット・デメリット

 分社型のホールディング体制への移行は、複数の事業を展開している企業が検討することが多くなっています。複数事業を効率的に運営する組織体系としては、各事業に損益の責任を持たせる事業部制、貸借対照表により資産効率まで管理するカンパニー制、一企業として大幅に権限を委譲するホールディング体制、の3つが代表的なスキームとして活用されています。役員としては、それぞれのメリット・デメリットを精査したうえで、自社に最適な仕組みを選択する必要があります。

 ホールディング体制のメリットとしては、主に以下の5点が挙げられます。
(1)親会社がグループ統括機能に特化することで、全体最適な戦略策定および意思決定を徹底できる。
(2)各事業を独立した企業体に分離することで、事業売却や企業買収などのグループ再編が容易となる。
(3)ビジネスの特性に応じた人事処遇や管理手法を、各子会社単位で柔軟に設計することができる。
(4)子会社が一企業としての権限と責任を持つことで、ビジネス上の施策を迅速に判断することができる。
(5)各事業が独立した企業として扱われることで、役職員のモチベーションやモラールの向上が期待できる。

 ただし、事業部制やカンパニー制によった場合でも、(1)~(5)のいずれについても、類似の効果が期待できます。もちろん、ホールディング体制の方が効果を徹底することができますが、メリットの裏返しとしてデメリットを被る可能性も大きくなります。メリット(1)~(5)に対応したホールディング体制のデメリットは、以下のとおりです。
(1)本社機能に特化した純粋持株会社に加えて、各子会社にも管理部門が必要になるため、間接コストが重い。
(2)各事業が別個の企業体となることでそれぞれの独立性が強まり、経営資源や情報の共有といったグループ連携を図りにくくなる。
(3)各子会社で個別に設計した人事制度等は、その後の状況に変化が生じたとしても、容易に変更することができない。
(4)子会社から親会社に情報が伝わりにくく、また意思決定の手続きが重複するため、意思決定に時間がかかる。
(5)「グループの一員」としての意識が子会社から薄れ、部分最適に偏った事業運営になる恐れがある。

 なお、「統合型のホールディング体制」の場合、将来的にホールディング体制を維持するのか、あるいはワンカンパニーとして再統合するのかで、上述のメリット/デメリットをいかに考慮すべきかが大きく左右されます。基本的には、コングロマリット*展開を志向するならホールディング体制を維持する(すなわちメリットを重視)、統合会社間のシナジーを追求するなら将来的なワンカンパニーを目指す(すなわちデメリットを回避)、ことになります。

* 異なる業務内容の事業を展開する複数の会社によって形成される企業グループのこと。

 以上を踏まえて、なぜ新社長がホールディング体制への移行を提案したのか、それに対し役員として何に留意すべきか、考えてみましょう。

ビジョン・戦略との親和性

 まず検証すべきは、現在の事業ポートフォリオです。新社長の問題意識として、既に現在の事業展開がコングロマリット化しており、ワンカンパニーの取締役会でコントロールすることが非効率だと感じたのかも知れません。ビジネス特性がかけ離れた複数の事業はそれぞれの責任者に任せ、自らはグループ全体の舵取りに専念したいと考えたのならば、新たな成長ステージをもたらす合理的な判断である可能性が高いでしょう。

 一方で、展開している事業が決して多角化しておらず、むしろ各部門間で連携や情報共有を図ることが、ビジネスにおける強みにつながっている場合、積極的にホールディング体制に移行するメリットは望みにくく、むしろデメリットばかりが発生する恐れが大きいと言えます。新社長がホールディング体制を志向した意図や問題意識が何であり、その狙いが事業部制やカンパニー制によって実現できないものか、取締役会において議論を尽くすべきでしょう。

 もっとも、ホールディング体制に移行すべきかどうかを、現在の事業ポートフォリオだけで判断してはいけません。新社長は既存のビジネスモデルに限界を感じて、新たな事業領域や展開地域を獲得するため、M&Aを含む積極的なグループ再編を志向しているのかも知れません。まずは新社長が構想している新たなビジョン・戦略を確認し、これと整合するということであれば、ホールディング体制は優れた仕組みとなり得ます。すなわち、「組織は戦略に従う」(アルフレッド・チャンドラー)という経営理論に忠実であるべきということです。

 逆に警戒すべきなのは、大掛かりな組織再編を指揮する目的が、新社長としてのリーダーシップを早期に確立しようとする意図のみにあるケースです。ビジョン・戦略と整合していないホールディング体制は、移行に伴うイニシャルコストと、デメリットによるランニングコストの両面で多大な負担となるでしょう。そもそもホールディング体制は各事業に権限と責任を委譲するためのスキームであり、むしろ純粋持株会社のトップからは支配力を奪いかねない点に注意が必要です。

 まとめとして、新社長がホールディング体制への移行を提案してきた場合、役員としては次のポイントを重視して、取締役会における討議に臨むべきだと言えます。

【チェックリスト】
※該当が多ければホールディング体制は有用
□ グループの事業が多角化しており、事業ごとに権限と責任を委譲するべきである
□ 各事業のビジネスモデルには違いが大きく、シナジー効果は重要な要素でない
□ 新たなビジョン・戦略が、事業領域や展開地域などの積極拡大を図るものである
□ 今後の事業展開において、企業買収など機動的なグループ再編が予想される
□ 経営トップは、個別事業の牽引役よりも、グループ全体戦略の構想家に適している

2014/07/04 政府の目玉戦略、「新たな労働時間制度」は企業経営上のメリット期待できず?

 政府が2014年6月24日に閣議決定した『「日本再興戦略」改訂2014』の中で、経営者の間で大きな話題を呼んでいるのが、「新たな労働時間制度」の創設(時間ではなく、成果で評価される制度への改革)だ。

 労働基準法上、会社の始業時間から終業時間までの「所定労働時間」を超えて労働者が働いた場合には残業代(所定外賃金)を所定内賃金にプラスして支払わなければならないため、労働時間が長くなるほど賃金も増えていく。政府が打ち出した新たな労働時間制度とは、一定の要件(後述)を満たす者については、その者のアウトプット(=成果)を評価して賃金を決定する仕組み。つまり、労働時間の長短に関係なく、「同じ成果であれば同じ賃金」とすることで、労働時間と賃金との直接的なリンクを断ち切ろうというわけだ。

 工場労働のように、労働時間の長さと成果とに比例関係が明確に認められる定型業務では、労働時間の長さと賃金とをリンクさせることに合理性がある。しかし、第3次産業が増加し、いわゆるホワイトカラーが労働者の多くを占めている現状においては、長時間働いたからといって、必ずしもよいアウトプットが得られるわけではない。例えば、ある企画を立案する際に、時間をかければかけるだけより良い企画になるという保証はない。しかも、同程度の企画を立案した者が複数いた場合、短時間で考え出した者よりも、長時間かけた者のほうが残業代の発生によって賃金が多くなるという矛盾が生じることになる。つまり、投入する労働力と、そのアウトプットである成果との間に相関関係が必ずしも成立しない仕事が、日本企業には数多く存在しているということである。

 それにもかかわらず、いまだ日本の労働法制は戦後の工場労働者をベースに定めた労働時間管理が基本となっている。今回の政府の提案はこれに風穴を開けようというものであり、その点は大いに評価できる。また、労働者は自己の裁量で労働時間をコントロールすることができ、さらに、いかに短い労働時間で成果を出すかという“効率的な働き方”について労使で知恵を絞ることによって、ワーク・ライフ・バランスの推進と、世界的に低いとされる日本企業のホワイトカラーの労働生産性向上にも寄与するのではないかと期待されている。

 ただ、問題は、現段階で例示されている「一定の要件」が、・・・

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2014/07/04 政府の目玉戦略、「新たな労働時間制度」は企業経営上のメリット期待できず?(会員限定)

 政府が2014年6月24日に閣議決定した『「日本再興戦略」改訂2014』の中で、経営者の間で大きな話題を呼んでいるのが、「新たな労働時間制度」の創設(時間ではなく、成果で評価される制度への改革)だ。

 労働基準法上、会社の始業時間から終業時間までの「所定労働時間」を超えて労働者が働いた場合には残業代(所定外賃金)を所定内賃金にプラスして支払わなければならないため、労働時間が長くなるほど賃金も増えていく。政府が打ち出した新たな労働時間制度とは、一定の要件(後述)を満たす者については、その者のアウトプット(=成果)を評価して賃金を決定する仕組み。つまり、労働時間の長短に関係なく、「同じ成果であれば同じ賃金」とすることで、労働時間と賃金との直接的なリンクを断ち切ろうというわけだ。

 工場労働のように、労働時間の長さと成果とに比例関係が明確に認められる定型業務では、労働時間の長さと賃金とをリンクさせることに合理性がある。しかし、第3次産業が増加し、いわゆるホワイトカラーが労働者の多くを占めている現状においては、長時間働いたからといって、必ずしもよいアウトプットが得られるわけではない。例えば、ある企画を立案する際に、時間をかければかけるだけより良い企画になるという保証はない。しかも、同程度の企画を立案した者が複数いた場合、短時間で考え出した者よりも、長時間かけた者のほうが残業代の発生によって賃金が多くなるという矛盾が生じることになる。つまり、投入する労働力と、そのアウトプットである成果との間に相関関係が必ずしも成立しない仕事が、日本企業には数多く存在しているということである。

 それにもかかわらず、いまだ日本の労働法制は戦後の工場労働者をベースに定めた労働時間管理が基本となっている。今回の政府の提案はこれに風穴を開けようというものであり、その点は大いに評価できる。また、労働者は自己の裁量で労働時間をコントロールすることができ、さらに、いかに短い労働時間で成果を出すかという“効率的な働き方”について労使で知恵を絞ることによって、ワーク・ライフ・バランスの推進と、世界的に低いとされる日本企業のホワイトカラーの労働生産性向上にも寄与するのではないかと期待されている。

 ただ、問題は、現段階で例示されている「一定の要件」が、「少なくとも年収1,000万円以上」かつ「職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」となっている点だ。

 国税庁の「平成24年分 民間給与実態統計調査」によれば、給与所得者約4,556万人のうち、年収1,000万円超は約172万人と、全体のわずか3.8%に過ぎない。また、「高度な職業能力」がどの程度の職務レベルを想定しているのかも不明確であり、年収要件で限定された対象者が、さらに絞られることになる。このような要件を満たす者のうち、管理職ではない者が果たしてどのくらい存在しているのだろうか。

 詳細については、厚生労働省の労働政策審議会で今秋以降に検討することになっているが、現在例示されている要件をベースに新たな制度が創設されたとしても、企業経営上のメリットは限定的と言わざるを得ず、“絵に描いた餅”になってしまうのではないかとの指摘も多い。さらに、このような制度の創設をもって、「企業側の要望に基づいて労働時間規制を見直した見返り」として、所定外賃金に対する割増率の引上げや、週あるいは月、年における総労働時間の上限設定など、企業に対して別の規制強化が行なわれるのではないかと懸念する企業経営者もいる。

 役員としては、今後の労働政策審議会での審議状況を十分に注視しておく必要があろう。本件については、動きがあり次第、続報する。

2014/07/03 (新用語・難解用語)ISDS(会員限定)

 今年(2014年)の株主総会でパナソニックが「脱日本依存」を打ち出すなど、日本企業の海外進出は加速する一方だが、企業が海外に投資する際に考慮しなければならないのが、カントリーリスク*だ。例えば、X国で投資活動を行っているY国のA社とX国政府との間で利害の不一致が発生し、紛争に発展するようなことが起こり得る。この場合、X国の司法手続きに中立性があればX国で裁判をすればよいが、特に新興国では、この中立性に懸念があるケースが少なくない。そこで活用されているのが「ISDS(Investor-to-State Dispute Settlement=国家と投資家の間の紛争解決)」という国際仲裁による投資紛争解決の仕組みだ。上記例で言うと、A社はX国ではなく「Y国」において国際仲裁による中立的な解決ができるよう、X国とY国の間でISDSを締結することになる。

* 投資や貿易を行う国の政治・経済情勢や新たな取引規制などにより受けるビジネス上のリスクのこと。一般に、カントリーリスクは先進国より発展途上国の方が高い。

 ISDSは、投資協定*1に「ISDS条項」を盛り込むことで適用が可能であり、投資を呼び込みたい新興国(上記の例ではX国)と自国企業の海外投資リスクを軽減したい先進国(同Y国)の間の投資協定やEPA*2(Economic Partnership Agreement、経済連携協定)の多くに盛り込まれている。日本政府も、海外進出する日本企業の保護の観点から、既に締結している25本のEPAや投資協定のうち実に24本について、ISDS条項を盛り込んでいる。

*1 企業が海外に会社や工場を設立したり、海外企業を買収する際の条件やルールを2国間(投資する側、される側の国)であらかじめ決めておくこと。

*2 関税撤廃などを定めた自由貿易協定(FTA=Free Trade Agreement)をベースに、投資規制の撤廃、知的財産制度など経済制度の調和、各種の経済分野での協力などを追加した条約。

 日本企業の投資先としては現状、新興国が中心となっているため、ISDSはほぼ新興国との間のみで締結されている。もちろん、市場として魅力のある先進国への投資も検討されるべきであるが、実は先進国の中にはISDSの締結を認めないところもあるので注意する必要がある。

 例えばオーストラリアだ。オーストラリア政府は2011年12月、喫煙率の引き下げを目指すとしてタバコ包装への規制(無地あるいはロゴを禁止することなど)を施行した。これに対し、米国フィリップモリス社は同年6月、香港子会社を通じ、香港とオーストラリアの投資協定を利用してISDSの手続きをとっている。香港子会社はオーストラリア子会社への損害賠償を求める申し立てを行い、現在も係争中である。この事例をきっかけに、オーストラリア政府は、今後の貿易協定ではISDS条項を盛り込まない方針を発表している。先進国対先進国の投資協定にISDS条項が盛り込まれた場合、従来のISDSの目的(主に政治的なカントリーリスクの回避)と異なり、国民の健康や人権、国防、環境問題などが規制の目的であって、外国企業を排除する政治的意図がない場合でも、投資企業がISDSで対抗してくる可能性があるからだ。

 また、欧州委員会*1は2014年3月より、米国と欧州連合(EU)の環大西洋貿易・投資パートナーシップ(TTIP: Transatlantic Trade and Investment Partnership、いわゆる米欧FTA*2)の締結に向けた議論の一環として、ISDSに関するパブリックオピニオンの募集を実施しているが、2013年3月の交渉開始時には交渉妥結に楽観的な見方が多かったにもかかわらず、ここにきてISDSが障害の1つとなって交渉が迷走している。

*1 欧州連合(EU)の政策執行機関。

*2 関税や通商上の制限の緩和や撤廃などを定めた自由貿易協定(FTA=Free Trade Agreement)。2国間で締結されることが多いが、米欧FTAのように多国間で締結されることもある。

 欧州委員会がパブリックオピニオンの募集を開始したのは、NGO団体や市民団体から、「仲裁人の独立性・公明性に疑問がある」「ISDSを適用する場合における複数の法制度の関係性が不明確(例えば、米国の法令では自国(米国)企業を優先することは禁止事項ではないが、投資協定ではそのような優先行為は禁じられているなど)」といった声が上がっていたことを受けたもの。5月にブリュッセルで開催されたISDSをテーマとする会合には200以上の団体が参加、社会的な関心の高さがうかがわれる。

 投資を呼び込みたい国、投資したい国のどちらにも利益につながると考えられるISDSだが、従来の「先進国対新興国」ではなく、「先進国対先進国」での締結となると、上述のように必ずしもそうとは言えない。欧州委員会のパブリックオピニオン募集締め切りは(2014年)7月末、また、TTIP交渉の第6ラウンドは7月15日から開始の予定だが、交渉の場では、「先進国間投資」における透明性が高く公正なISDSの仕組み作りについて話し合われるだろう。

 海外投資に関する経営判断には、ISDSの有無やその内容が大きな影響を与える。したがって、TTIP交渉におけるISDSの議論の行方は、日本企業における先進国投資への投資意欲も左右する可能性がある。本件については、新たな動きがあり次第、続報したい。