ホールディング体制とは?
経済産業省の「平成25年純粋持株会社実態調査確報」によると、我が国には291社の純粋持株会社が存在しています。「純粋持株会社」とは、本業を持たず他社の株式を保有することを主たる目的とする会社であり、これが頂点となって複数の事業子会社を支配するグループ構造を「ホールディング体制」と呼んでいます。ホールディング体制においては、子会社が事業を通じて収益を獲得、純粋持株会社の収益源泉は子会社からの配当が主なものとなります。
純粋持株会社は、終戦後、ホールディング体制を採用していた財閥を解体するため、新たに制定された独占禁止法によって一度は禁止されました。しかし、財閥支配が過去のものとなり、また海外ではホールディング体制はごく一般的ということもあって、1997年の独占禁止法改正によって、再び純粋持株会社が解禁されました。なお、2002年に連結納税制度が創設されたため、同制度を適用する純粋持株会社グループは、グループ内の複数の会社間で損益を通算することが可能となっています。
ホールディング体制に移行する企業数が特に多かったのが2006年から2008年にかけてです。当時、日本経済は戦後最長の景気回復期にあり、企業の投資意欲は旺盛で、グローバル展開やM&A戦略を推進する方策として、積極的にホールディング体制が採用されました。その後、リーマンショックを受けて、ホールディング体制に移行する企業数は減少したものの、2013年からの景気回復を背景に、このところ再び活発になっています。
ホールディング体制に移行する手法としては、(1)会社分割、(2)株式移転、の2つが主に用いられています。(1)では、既存会社は事業を分離する形で子会社として分割、既存会社は事業を持たない純粋持株会社に移行して親会社となります。(2)では、既存会社の株式を移転することにより新たに純粋持株会社を設立、既存会社は純粋持株会社を親会社とする事業子会社として、その傘下に入ります。上記の経済産業省の調査によると、(1)が42.6%、(2)が44.3%と拮抗しています(残りは(1)(2)の組み合わせなど)。
一方、「移行する目的」によってホールディング体制のタイプを分けると、主に(1)分社型、(2)統合型、の2つがあります。(1)は、1つの既存会社の内部組織を、純粋持株会社と事業子会社に分割するケースが典型的です。(2)は、複数の既存会社が新たな純粋持株会社の下、経営統合を進めるケースにおいてよく見られます。上述の移行方式と関連付けると、「分社型」では「会社分割」が、「統合型」では「株式移転」が、それぞれ多く用いられています。
今回の課題は、新社長の就任を機に「分社型のホールディング体制」に移行することが相当か否か、役員の立場で検討を求めるもの、ということになります。
ホールディング体制のメリット・デメリット
分社型のホールディング体制への移行は、複数の事業を展開している企業が検討することが多くなっています。複数事業を効率的に運営する組織体系としては、各事業に損益の責任を持たせる事業部制、貸借対照表により資産効率まで管理するカンパニー制、一企業として大幅に権限を委譲するホールディング体制、の3つが代表的なスキームとして活用されています。役員としては、それぞれのメリット・デメリットを精査したうえで、自社に最適な仕組みを選択する必要があります。
ホールディング体制のメリットとしては、主に以下の5点が挙げられます。
(1)親会社がグループ統括機能に特化することで、全体最適な戦略策定および意思決定を徹底できる。
(2)各事業を独立した企業体に分離することで、事業売却や企業買収などのグループ再編が容易となる。
(3)ビジネスの特性に応じた人事処遇や管理手法を、各子会社単位で柔軟に設計することができる。
(4)子会社が一企業としての権限と責任を持つことで、ビジネス上の施策を迅速に判断することができる。
(5)各事業が独立した企業として扱われることで、役職員のモチベーションやモラールの向上が期待できる。
ただし、事業部制やカンパニー制によった場合でも、(1)~(5)のいずれについても、類似の効果が期待できます。もちろん、ホールディング体制の方が効果を徹底することができますが、メリットの裏返しとしてデメリットを被る可能性も大きくなります。メリット(1)~(5)に対応したホールディング体制のデメリットは、以下のとおりです。
(1)本社機能に特化した純粋持株会社に加えて、各子会社にも管理部門が必要になるため、間接コストが重い。
(2)各事業が別個の企業体となることでそれぞれの独立性が強まり、経営資源や情報の共有といったグループ連携を図りにくくなる。
(3)各子会社で個別に設計した人事制度等は、その後の状況に変化が生じたとしても、容易に変更することができない。
(4)子会社から親会社に情報が伝わりにくく、また意思決定の手続きが重複するため、意思決定に時間がかかる。
(5)「グループの一員」としての意識が子会社から薄れ、部分最適に偏った事業運営になる恐れがある。
なお、「統合型のホールディング体制」の場合、将来的にホールディング体制を維持するのか、あるいはワンカンパニーとして再統合するのかで、上述のメリット/デメリットをいかに考慮すべきかが大きく左右されます。基本的には、コングロマリット*展開を志向するならホールディング体制を維持する(すなわちメリットを重視)、統合会社間のシナジーを追求するなら将来的なワンカンパニーを目指す(すなわちデメリットを回避)、ことになります。
* 異なる業務内容の事業を展開する複数の会社によって形成される企業グループのこと。
以上を踏まえて、なぜ新社長がホールディング体制への移行を提案したのか、それに対し役員として何に留意すべきか、考えてみましょう。
ビジョン・戦略との親和性
まず検証すべきは、現在の事業ポートフォリオです。新社長の問題意識として、既に現在の事業展開がコングロマリット化しており、ワンカンパニーの取締役会でコントロールすることが非効率だと感じたのかも知れません。ビジネス特性がかけ離れた複数の事業はそれぞれの責任者に任せ、自らはグループ全体の舵取りに専念したいと考えたのならば、新たな成長ステージをもたらす合理的な判断である可能性が高いでしょう。
一方で、展開している事業が決して多角化しておらず、むしろ各部門間で連携や情報共有を図ることが、ビジネスにおける強みにつながっている場合、積極的にホールディング体制に移行するメリットは望みにくく、むしろデメリットばかりが発生する恐れが大きいと言えます。新社長がホールディング体制を志向した意図や問題意識が何であり、その狙いが事業部制やカンパニー制によって実現できないものか、取締役会において議論を尽くすべきでしょう。
もっとも、ホールディング体制に移行すべきかどうかを、現在の事業ポートフォリオだけで判断してはいけません。新社長は既存のビジネスモデルに限界を感じて、新たな事業領域や展開地域を獲得するため、M&Aを含む積極的なグループ再編を志向しているのかも知れません。まずは新社長が構想している新たなビジョン・戦略を確認し、これと整合するということであれば、ホールディング体制は優れた仕組みとなり得ます。すなわち、「組織は戦略に従う」(アルフレッド・チャンドラー)という経営理論に忠実であるべきということです。
逆に警戒すべきなのは、大掛かりな組織再編を指揮する目的が、新社長としてのリーダーシップを早期に確立しようとする意図のみにあるケースです。ビジョン・戦略と整合していないホールディング体制は、移行に伴うイニシャルコストと、デメリットによるランニングコストの両面で多大な負担となるでしょう。そもそもホールディング体制は各事業に権限と責任を委譲するためのスキームであり、むしろ純粋持株会社のトップからは支配力を奪いかねない点に注意が必要です。
まとめとして、新社長がホールディング体制への移行を提案してきた場合、役員としては次のポイントを重視して、取締役会における討議に臨むべきだと言えます。
【チェックリスト】
※該当が多ければホールディング体制は有用
□ グループの事業が多角化しており、事業ごとに権限と責任を委譲するべきである
□ 各事業のビジネスモデルには違いが大きく、シナジー効果は重要な要素でない
□ 新たなビジョン・戦略が、事業領域や展開地域などの積極拡大を図るものである
□ 今後の事業展開において、企業買収など機動的なグループ再編が予想される
□ 経営トップは、個別事業の牽引役よりも、グループ全体戦略の構想家に適している