昨今、海外の競合企業から、わが国企業の営業秘密が不正に取得・使用される懸念が高まっている。新日鐵住金や東芝が、韓国企業を相手に訴訟を提起したニュースは記憶に新しい。
「営業秘密」には、いわゆる顧客名簿のような営業戦略上有用な情報に加え、企業の中で生まれた技術情報やノウハウなども含まれる。これらは、あえて特許化せずに非公開情報として“秘匿化”することによって、他社の製品やサービスと差別化を図る、企業にとってのいわば“生命線”と言える。これが海外に流出すれば、企業だけの問題にとどまらず、国としての産業競争力の低下にも繋がりかねない。
米国や韓国等においては、官民が連携してこうした情報の不正取得・使用に対応する体制作り・法制度が整備されているが、わが国においては、これまで「個別企業の問題」としか捉えられてこなかった。
営業秘密が流出するきっかけとなりやすいのが「転職」だ。研究者の転職を契機とする技術流出はその典型例と言える。もちろん、技術者がより良い待遇や研究環境を求めて転職すること自体は規制されるべきではない。しかし、元の勤務先にとって極めて重要な技術情報を不正に持ち出し、その技術情報を使って転職先で製品開発等を行なったり、そもそも重要な技術情報を不正に取得・流出させることが転職の条件になっているとなれば、企業はもちろん、国としても決して看過できないだろう。実際、上述した新日鐵住金や東芝の事件も、こうした悪質な情報流出が原因となっている。
こうした問題に対しては、各企業の対策が不可欠であることは言うまでもないが、それだけでは不十分だ。国は、「重要な情報が流出したのは、その企業の管理が甘かったから」というこれまでの考え方から脱却し、国としての対策も諸外国と同レベルに引き上げる必要がある。
具体的な対策としては、まず法律の改正である。現在の不正競争防止法の規定が、国として営業秘密の不正な取得・使用を許さないという断固たる姿勢を示すものとなっているか、改めて見直すべきである。
次に、営業秘密管理指針の見直しである。同指針は、企業における営業秘密の管理の参考に供するため経済産業省が公表しているものであるが、多数の管理手法が例示される一方、それらをいかに実践すれば法的に保護されるのかが明らかでない。
3つ目に、捜査当局をはじめとする官民の連携強化である。諸外国の事例も含めた情報共有や、中小企業を中心とする周知啓蒙活動が行われることが期待される。
これらについては、既に政府内で具体的な検討が始まっているが、方向性はまだ固まっていない。各企業は、当面はこうした動きを注視しつつ、 “自助努力”により少しでもリスクを減らすしかないのが現状。政府には迅速な対応が求められよう。