最近、企業経営者の口から「人材不足だ」「人が集まらない」という声を聞く機会が増えた。労働人口の減少や景気回復による“売手市場化”もあり、特に出店による拡大戦略を続けている小売・外食業では深刻な問題となっている。
こうした中、ゼンショーホールディングスが展開する牛丼チェーン「すき屋」において、最大123店舗で一時休業や時間帯休業の措置をとる事態が発生した。その要因としては、業界における折からの人材不足に加え、想定以上の手間を要する新商品の導入により従業員の負担が増加し、人材流出が重なったことが挙げられている(ゼンショーホールディングス「すき屋の職場環境改善に向けた施策について」参照)。小売・外食業ではパート・アルバイト等の非正規社員の比率が高く、本件の人材流出も主に非正規社員だと思われる。
人材不足は、店舗休業や想定数以下の人員での無理な営業によるミス・トラブルの誘因となり、また、顧客のニーズに十分に応えられなくなることによって、最終的には業績に大きな影響を与えかねない。そのため、経営陣としては人材不足を明確に“経営上のリスク”と認識し、適切な対策を講じていく必要がある。
主な対策としては、
(1)非正規社員の活用
(2)シルバー層の活用
(3)多様化(外国人・女性の活用)
(4)職場環境・働き方の見直し
(5)業務プロセスの見直し
の5つが考えられるが、今回のゼンショーのケースで特に重要なのは、(1)の「非正規社員の活用」であろう。
既存の非正規社員を活用する手段としてよく見られるのが、“正社員化”による囲い込みだ。雇用形態は「地域限定型」社員となることが多い。これは、非正規社員は地域性が強く、他地域に異動したがらない傾向があるため。逆に言うと、地域を限定した勤務ができるのであれば、正社員という安定した身分で精力的に活躍したいと考える人材も多いと思われる。地域限定型社員となった者のうち一部の人材は将来さらなる成長を志向することも考えられるため、「全国型」社員への転換ルートも整備しておくとよい。
次に挙げられるのが、賃金体系を正社員と同水準に引き上げるケースである。労働契約の形態は異なっても同じ業務を行っているのであれば、正社員・非正規社員にかかわらず賃金水準を同程度にすることで納得感が得られ、非正規社員のモチベーション・責任感も高まることになろう。同様の狙いを持った取組みとして、賞与・退職金・手当・福利厚生制度の整備を行うケースもある。
もっとも、働く動機付けとしてより重要なのは、「この会社で働きたい。ここで一緒に成長していきたい」と思えるか、あるいは、自分の夢・ビジョン・キャリアパスが描ける会社であるということだ。これらは専ら正社員について指摘されることであるが、非正規社員にも同じことが言える。社員がイキイキと働いている会社においては、トップが積極的に夢・ビジョンを語り、その夢・ビジョンに組織人事の制度・仕組みが連動している。そして、そのような会社は往々にして、社内のコミュニケーションが活発であることが多い。経営陣は、正規・非正規の壁を取り払い全社員が共通の目標に邁進できるような仕組みや社風の構築を自らの“最重要課題”と位置付け、これに取り組むべきである。
昨年(平成25年)4月1日からは、非正規社員の活用に関わる規制改革として、改正労働契約法による「有期契約の無期転換ルール」がスタートしている。これは、同じ会社で有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みにより契約形態が「無期労働契約」に転換され、無期契約社員(期間の定めのない社員)になるというもの。
ただ、この無期契約社員は正社員とは異なる。あくまで非正規社員としての労働条件のまま(例:時給○○円など)、契約期間だけが無期に変わるに過ぎない。改正労働契約法に従って企業が現在抱えている非正規社員の契約更新を続けていくと、近いうちに多くの非正規社員が無期契約社員になるが、人材獲得競争が熾烈化する中、従前の労働条件のままで人材がとどまってくれるかどうかは不透明と言える。無期労働契約に転換する前に、もっと自分を認めて評価してくれる会社、より良い条件で働かせてもらえる会社、「やりがい」を感じられる会社に流れてしまうことは十分に考えられる。労働契約法の改正をきっかけに、人材不足に拍車がかかる企業も少なからず出てくるだろう。
こうした事態を避けるためには、上述したような「非正規社員の活用」に企業は真剣に取り組む必要がある。ゼンショーホールディングスも今回の件を深刻に受け止め、店舗の労働環境改善を経営の最重要課題に設定し、2014年6月2日付で全国7つの地域運営会社を発足させ、地元出身の幹部がより地域に密着したチェーン経営を行う体制とすることを発表している。新体制への移行には、地域の顧客と接する現場の従業員の状況を随時把握し、密なコミュニケーションにより彼らの声を吸い上げ、スピード感をもって対応していくという、強い経営の意志が感じられる。今回の件を機に、同社が非正規社員活用のモデルケースとなることを期待したい。